※注意
(神様どうか何も見ないでください僕はもうあなたを敬うだけの資格すら無いのです)
(神様どうか耳を塞いでいてください僕らはきっと今からあなたを汚す)
はーはーと熱を孕んだ吐息は人をなくした礼拝堂にやけに大きく聞こえる。こんなにも暴れて、吠えて、自分を徹底的に拒む幼なじみの姿を、ユーリは今まで知らなかった。それもこれも場所がいけなかった。いつもなら互いの寮の部屋でまことひそやかに行う行為をこんなところでするなんて、フレンは無理やり扉の内に連れ込まれる最後の最後までぐずっていた。涙に濡れた片頬が腫れている。殴ったのだ、ユーリが。大切に大切に扱っていた筈の宝ものへと、冷たい光を宿した瞳はそのまま腕を振り上げさせたのだ。
制服の上着を捲くり上げ、恐怖に震えるその柔肌に指を滑らせる。またフレンが静かに泣いた。
「いや、嫌だ、ユーリやめて、僕はこんなのは嫌だ」
必死に自分を押し返そうとする細い手首は無力だ。可哀相なくらい怯えている。ユーリは覆いかぶさっていたフレンから上半身だけを起こした。それを見て安堵に揺れたフレンの表情を、ユーリは許せないと思った。同じように自らの制服も上から順に釦を外していく。いつかふたりでお揃いで買った下着が姿を見せたとき、フレンの目は明らかな絶望を湛えた。
「あの夜で最後にしようって、言ったのに、」
「俺はそんなの認めてない」
「だって、やっぱりおかしいよこんなの、僕もユーリも女の子で、神様に純潔を誓った身体なのに、しかもこんな場所でこんな、こんなの」
フレンは頭上を仰ぐことが出来ない。そんなことは出来ない。今確かにこの浅ましいふたりを見下ろしているのは、神の御心をその身に受けた聖像だった。見られている。穏やかに閉じた瞼の裏で、どんな蔑みの視線を送られていることか。それを想像するだけで、足元からなにもかも崩れていってしまいそうだった。
「ユーリ、ねえ、もうやめるんだ、このままじゃ僕たち、本当に何処へ行けばいいかわからなくなる」
フレンの言葉にユーリが手を止めた。長い黒髪が肩から落ちて、少しだけフレンにかかった。
「……神なんていらねえ、そんなもん、お前と同じで無力だ」
薄桃色の爪が先についた白くて綺麗な、大好きだったユーリの指が、何もかもを掻き分けてフレンの奥にまで届く。
涙が止まらない。いっそこのまま干上がって死んでしまいたいと思うのに、聖壇へ張り付けられた身体はただユーリに従順だった。