ロランの背中は薄っぺらくて頼りない。少しだけ音程がずれた小声のカントリー・ロードを聴きながら、あたしは手元の雑誌に目を移す。あんたはまるで女の子みたいだ。適当に開いたページに載っているどの子よりも、可愛い。それはもう。例えばここに春の新作と銘打つ花柄のシフォンワンピースがリボン付きのキャスケットとバレエシューズと併せて似合うような奴だった。キッチンの方からミートソースのいい匂いがしても、今のあたしには憂鬱。あたしよりも可愛いロラン。なんだかむかつく。
「あーっ!もうイライラする!ばか!すかぽんたんロラン!」
「え、どうしたんですかお嬢様」
雑誌を机に叩きつける。八つ当たり半分で乱暴にソファへ体を沈めた。駆け寄ってくるロランの姿を見てまたあたしはげんなりする。ピンクのフリルがついたエプロンをなんの違和感もなく着こなすあんたの男らしさは一体何処に置いていかれたんだろう。
「そのエプロン、あんたの趣味?」
「これですか?グエン様から頂いたものですけど」
その言葉を聞いて、気が抜けたというか、何も言えなくなった。取り敢えず、そうだ、ロランを守れるのはあたしだけなんだから、あたしがしっかりしないと。
「僕、何かお嬢様の気に障るようなことしたでしょうか」
「……ううん、違う、なんでもないの、ごめん、もういいわ」
体を起こして、ロランの手をとる。微笑みながら優しく握り返してくれるその温かみが好きだった。
「あたしも手伝う」
「ふふ、ありがとうございます」
器用なあんたと違って綺麗に盛り付けは出来ないけれど、味見くらいなら喜んでやってあげる。今日の夕食は可愛いロランの作ったどこにお嫁に出しても恥ずかしくないくらい美味しいミートソーススパゲティ。