長い睫毛に積もる霜を払ってやりたい。冷凍カプセルの直ぐ傍に腰を降ろすオレはその中身の少年を見て思う。固く閉じた瞳の、何もかも拒絶してるみたいな冷たさ、それに少しだけ寂しくなった。ここの寒さは人の思考にまでつけこむのだろうか。
(目を開けてオレを見て、そしたら親父と間違えるかな、デュオって、懐かしそうに呼ぶのかな)
(……気に食わねえ)
顔の見える透明なガラス張りの部分に覆い被さるようにしてカプセルへ乗り上げた。試しに二、三度叩いてみる。少しも動かない目蓋が悔しくて、次は強めに刺激を与えた。外とは比べ物にならないくらいの冷気に触れているところから感覚が無くなっていく。誰もいない今なら、こいつを連れ出せる気がした。
「無駄だぞ」
「うるせえ」
「おまえには出来ない」
「そんなの分かんねえだろ」
肩に手がかかる。そのまま強い力で引き剥がされる。もがくオレを冷たい床に放り投げてから、クソ親父は至極優しい手つきでカプセルの表面を撫でた。吐き気がする。大切に大切に扱うくせに、戦場の中へオレと一緒にぶち込むなんて、何考えてやがる。
「ヒイロは何も言わない、頷くさ、そういう男だった」
「死ね、クソ親父」
「なんだ、情でも移ったのか」
「違えよ、死ね、……しね」
リノリウムに爪をたてた。傷跡ひとつ残せないのを認めたくなんかなかった。目の前で親父がカプセルにキスをしている。オレは死にたい。