アルトくんの掌はきれいだった。まっさらな新雪を敷き詰めたような、誰にも踏み荒らすことの出来ない完成した美しさだった。そうだった。今は違う。血豆と切り傷と打ち身と、蔓延る生々しい戦いのあとを数えるのはもうやめた。わたしはなんて無力なんだろう。アルトくんはいつからかあまりわたしと手を繋いでくれなくなった。少し離れた後ろから見るあなたの横顔がまるで知らない人みたいで、少し不安になる。ざわつく街の喧騒の波に、わたしの声は流されていった。違う。違うの。我が儘を言いたいわけじゃないの。あなたを困らせたいわけじゃないの。一人にさせたくないから、一人は嫌だから、だからわたし走って来たんだよ。あなたの寂しそうな右の掌を、抱き締めに来たの。
「……ランカ?」
「アルトくんの手、あったかいね」
「ごつごつしてて触り心地悪いだろ」
「ううん、そんなことない、いつだってわたしを守ってくれる、優しいてのひら」
見上げたあなたは照れくさそうに微笑んで、そうして強い強い力で想いを握り返してくれる。毎日遅くまで宇宙の平和の為に戦うアルトくんは正義のヒーロー。わたしは歌を謳うことでしか自分の存在を証明出来ないけれど、どうせ謳うならあなたの為がいい。あなたがわたしのこころを背負っていってくれるなら、わたしはずっとあなたの傍にいられる。アルトくんの掌は今だってきれい。完成されない美しさ。あなたとわたし。どこまでも飛べる。