オルゴールは回る
ぎこちなくではあるが、ようやくチトセに笑みを返したその時、不意に廊下が騒がしくなった。
首を傾げてチトセを見れば、彼女も首を傾けながら自身の推測を口にした。
「多分、他の転生者じゃないかしら?
暴れる人もたまにいるみたいだから……」
あぁ、やっぱりそういう人もいるんだ。
そういえば、あたしが起きた時にも大きな音がしたけたど、アレもそうだったのだろうか。
確かに嫌だよね、こんな所に入れられるの……あたしも出来れば遠慮したかったなぁ。
問答無用どころか、意識さえない時に入れられたであろう瞬間を想像し、ふと遠い目で天井の隅を見やる。
今更思っても仕方ない事なんだけども、思わずにはいられない。
しかし、ふとチトセの気遣わしげな視線に気付き、誤魔化し笑いを浮かべながら、逃げるように扉へと顔を向けた。
想いを馳せている間にだいぶ近付いていたらしく、会話内容が断片的にだが聞こえるほどになっていた。
……どうやら、怒鳴り合いながら歩いているらしい。
(げ、元気だなぁ…………んん?)
次第に近付く声は、低いがまだ子供っぽさの残る男の子のそれで、なんとなく聞き覚えのある声に、あたしは首を傾げた。
つい最近聞いたような気がするのだけど……どこで聞いたのだろう。
記憶を探っているうちに、唐突に扉が開き、一人の少年が室内に叩き込まれた。
なんて扱いだとあたしが呆然としている間に、三人を残して素早く扉が閉められる。
少年は悪態をつくも、すぐさま起き上がって鉄格子に掴み掛かった。
「なにすんだよ、あア!?出しやがれ!!」
出せって……無茶を言うなぁ……。
そう言われて出すくらいなら、端っから入れないと思うんだけどな。
ひとしきり少年は見張りであろう人と怒鳴り合い、一旦は諦めたのか、舌打ちをして鉄格子から離れた。
そこで初めて、廊下の薄明かりに照らされて、彼の姿が確認出来た。
(……あれ……?)
初めて会う人だった。なのに、何だろう……この既視感は。
改めて彼を観察する。
キャスケットから覗く緑の髪と青がかった灰色の瞳、大きくはだけたシャツとジャケットにスラックスとブーツ、腰には二本の刀らしき武器。
うん、緑の髪の時点で、記憶のリストにその姿は無い。
だって、日本人は勿論、外国の友人にも緑だなんて奇抜な髪色の人はいない。
それなのに、なんでだろう。
(懐かしい、なんて……)
不思議な感覚に戸惑っていると、視線に気付いた少年と目が合ってしまった。
途端、灰色の瞳が不機嫌そうに細められる。
あ……そういえば、目線を外すのを忘れていた。
マズい。
今までの経験からそう察したが、もう既に手遅れだった。
「あア?なに見てんだよテメェ」
(やっちゃった……!! って、ん……?)
なんだか、非常にデジャブを感じる光景だ。
そう、あれは……
(そう、確か、)
確か――……
(さっき、夢、で)
to be continued...