08.炎火 ( 4 / 4 ) [栞]



イリアから目を反らし、手の中にある感触をもう一度確かめるように握って、あたしは唇を引き結んだ。

離脱すれば、もう彼らに会う事はないのかもしれない。
そうなれば、三人に会えるのはこれが最後になる。

それなら、伝えたかった。感謝を、そして謝罪を。

たとえ、伝わらなくても。たとえ、伝えられなかったとしても。
たとえ−−それがあたしの自己満足でしかなかったとしても。

呼吸を一つ置いて、改めて三人へと向き直ったあたしは頭を下げた。

言葉に出来ずとも、出来れば伝わるように気持ちを込める。
今までの感謝と、和を乱してしまった謝罪の意も込めて。

息をのむ気配が微かに空気を伝わってきたけれど、今彼らの顔を見てしまったら何かが崩れてしまいそうだったから、それに構わず姿勢を戻して背中を向けた。

物資は渡せた、これ以上此処に留まる理由はもうない。
スパーダが言った通り、流されるままに此処まで来たあたしは、それ以上の理由を持っていなかった。

だから、行かなくちゃいけないんだ。


(ルカたちといられる理由も、もう無いんだから)


胸に滲んだ痛みを押し殺し、静観していたらしい班長を見上げる。
彼は一瞬眉をひそめたものの、迷いを切り捨てるようにそれを消した。

行くぞ、と掛けられた声に首肯し、走り出した班長の背を追う。

目頭が熱い。
でも、今拭ってしまうとイリアたちに気付かれそうで、わずかに滲む視界を火の熱が払ってくれる事を祈る他なかった。

後ろから投げ掛けられたイリアやルカの呼び掛けに応える余裕もなくて、聞こえないフリをして思考に没頭する。

大丈夫、ルカたちならきっと、この混乱を逆手に取って上手く逃げおおせるだろう。
力を使いこなしてる彼らなら、無事に切り抜けられるはずだから。


(だから、多分……これで良かったんだ)


胸は変わらず痛むけれど、それさえも呑み込んで自分に言い聞かすように繰り返す。

ルカたちは充分強い、あたしが心配する必要などないくらいに。
あたしの微々たる力添えなんて、尚更だ。

ならば彼らの邪魔にならないよう、あたしはあたしでやっていこう。

自分が此処にいる理由を知る為に、この場所の事と前世の記憶を探る。
そして−−家に帰れる方法を見つけたい。

その為にも、まずはここを切り抜けなければ。

物思いを振り払い、吐き気さえしそうな赤の色彩を切り開くように先導する、班長の白衣だけに意識を傾ける。
傾けた端からこぼれていったものに目を背けて、耳を塞いで、ただ目の前にある現実だけを目に映した。

夢の中の"彼女"のように、胸を焦がす感情に蓋をして。





 to be continued...



( 戻る )


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -