02.喪失 ( 3 / 5 ) [栞]



(でも、考えてみたら、コミュニケーションって言葉以外でも伝える方法はあるもんね)


不便なのには変わりないが、何も言葉の通じない場所に放り込まれた訳じゃない。
頑張れば何とかなる筈だ、多分。

うん、頑張れあたし!

そう割り切り、心の中で自身に喝を入れる。
そんなあたしを見てチトセは小首を傾げたが、すぐに気を取り直したように、



「じゃあ、話を戻すけど、此処にいるって事は貴女も転生者なのよね?」


そう、あたしに問い掛けた。

……転生者?
聞き覚えの無い言葉に首を傾げると、知らないの?と聞かれ、その問いに頷くと驚いたような顔をされてしまった。

そんなに重要な事だったのだろうか。

一つ前のチトセの問い掛けから察するに、此処には"転生者"が集められているのかもしれない。
この牢のような造りの部屋から考えて、多分収容所か何かなのだろう。


(でも、"転生者"って……?)


文字のそのままの意味で取るならば、"生まれ変わり"だった筈。
だが、そんなこと有り得るのだろうか。

そもそも転生自体が夢物語のような事象だったと思うし、もし仮に転生した人がいたとしても、どうして第三者にその事がわかると言うのだろう。

………駄目だ。
分からない事が多すぎて、脳が情報を捌き切れない。

誰か、あたしに現状が把握出来るように説明してくれないだろうか。

誰か、と思いながら、視線が眼前にいる彼女へと向かう。
縋るように見つめるあたしに気付き、チトセは苦笑に近い微笑みを浮かべた。


「そうね……長くなっちゃうけど、一通り説明しましょうか?」


チトセの返答にパッと顔を輝かせて何度か頷き、お礼とお願いの意味も込めて軽く頭を下げる。
チトセはもう一度微笑み、思案するように一拍置いてから、長い長い説明を始めてくれた。

チトセの説明を纏めるとこうだ。

異能の力を持った者が現われた事。
その異能の力は前世の神だった頃の力だという事。
彼らを異能者或いは転生者と呼ぶ事。
転生者は前世の記憶を持つ異能者の総称だという事。
此所が捕縛した異能者を収容する施設である事。
そして、入信すれば異能者をも保護してくれるというアルカ教団の事。

チトセがアルカ教団の"マティウス様"という人について熱弁してる最中に、思い出したように彼女が「あっ」と呟いた。
……どうしたんだろう?


「いけないっ、すっかり忘れてた」


そう言って、チトセは床に置いてあった包みをそっと拾い上げた。
チトセは包みを抱えたまま振り返り、「はい」とあたしに手渡す。

つい、反射的に受け取ってしまったけれど……これは何なんだろう?

第一、こんな包みあったっけ?
あ、でもなんか軽くて柔らかい……。

戸惑ってチトセを見れば、微笑みながら「開けてみて」と言われてしまった。

さ、先に説明が欲しかったんだけど……仕方ない、開けてみよう。
チトセに促されて、あたしは困惑しながらも包みをそっと開けた。

出てきたのは、眩い白のワンピース。

思いがけない物に目を瞬きながら視線を落とせば、柔らかそうな白の生地が優しく受け止める。
素人目だが、恐らく結構良い生地が使われてると見た。


(どうしたのかな、この服……)


チトセの替えの服にしては、今、彼女が着ている服とは違いすぎる。

それに、こんな場所にあたしやチトセを閉じ込めるような人達が、わざわざ服を提供してくれるだろうか?
しかも、こんな女の子好みの物を。

悶々と悩むあたしの疑問に、あっさりと解答をくれたのはチトセだった。


「その服ね、貴女が寝てる間にマティウス様とお会いして、その時に貴女の事を話したら下さったの」


チトセの言葉と嬉しそうな声音に、顔を上げる。

予想と違わず、チトセは朗らかに笑っていて。
でも、何故かあたしは心から笑う事が出来ず、作った笑顔を貼り付けて笑った。


「本当にお優しい御方よね。素晴らしいわ」


チトセの目がキラキラと輝き、余程尊敬してるのが窺えた。
先程聞いた話で分かっていたけども、でも、何だろう……なんだかそれ以外の事を全く見ていないように思えて。

危うい、ような気がした。

嬉しそうに語りだすチトセを見ていられなくて、再び服へと視線を落とす。
そっと、それを広げてみると白地に青の縁取りが施された簡素なデザインが広がった。

裾の長いそれを裏返せば、腰の部分に縁取りと同じ青のリボンが付いている。

……よかった、懸念していた教団のマークらしき物は無い。
教会のシスターが着ている服をアレンジしたような……えっと、ローブっていうのかな。

シンプルだけど、なかなか可愛いなぁとか思ってクルクルとひっくり返していたら、クスリと小さな笑い声が聞こえた。

……笑い声の主は決まっている、チトセだ。
あたしと彼女以外いないから当たり前なんだけども。

頬を軽く膨らまして彼女を見れば、まだクスクスと笑っていた。


「ふふっ、ごめんなさい。あまりにも可愛らしいから、つい」


花のように笑いながら言うチトセに、恥ずかしさから顔がうっすらと赤く染まるのを感じた。

だって、チトセみたいな美人な子に可愛いとか……!
むしろ、今のチトセの方が絶対可愛いのに!

ブンブンと首を横に振って否定を示すと、チトセは笑いながらもそれ以上は言わなかった。



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