オルゴールは回る
(……あたし……死ぬ、のかなぁ……)
そうして、ようやく避けようのない事の顛末を認めた時に感じたのは、恐怖でもなく悲しみでもなく、他人事のような客観的な思いだった。
何を思うのでもなく、ただぼんやりと血溜まりを眺めていると、徐々に視界が闇に飲み込まれ始めた。
狭まっていく世界には生々しい紅と味気ない灰色しかなくて、先程まで見ていた金色が無性に恋しくなる。
代わりに、脳裏のキャンバスに黄金色を落として引いた線は、夢の中の彼女ではない別のものを描いていく。
あたしが取り戻したかったもの。
求めてやまなくて、心焦がれるほどに待ち望んでいたもの。
けれど、今となってはもう……叶わない、ゆめ。
(ごめん、ね……待っていられなくて……ごめ、なさ……)
混濁していた意識が更に霞みがかったように遠くなり始め、指先から冷たくなってゆく。
その体温が失われていく感覚もだんだんと感じなくなり、あたしを包みゆく"無"の感覚に、近付いてくる死の足音を聞いたような気がした。
あぁ、本当にあたしは……。
死ぬんだ。
そう思った瞬間、頬を温かな雫が伝い落ちた。
それが悲しみで流した涙なのか、死の安息に安心して流した涙なのか、あたしにも分からない。
待っていたかった。
もう一度あの日々に戻りたかった。
でも、待っている間辛かったのも寂しかったのも、苦しかったのも確かで、楽になりたいと思う時さえあったのも事実なのだ。
血の池に雫が落ちた刹那、底の見えない奈落の闇に引っ張られた。
抵抗らしい抵抗も出来ずに引きずり込まれた意識が、深い穴の中を墜ちていく。
(……死んだ後って……どうなるの、かな……)
意識が墜ちていく中で、ふとそんな事を思った。
天国や地獄があるのならば、そのどちらかに行くのだろうか。
それとも、いつか誰かが言っていたように、転生の輪に入って別の命として生まれ変わるのだろうか。
(もし……転、生……出来……る、なら……次、は)
涙で滲む視界を、欠片も残さず闇が喰い尽くす。
その暗闇の中で、光に包まれたあたしの大切な人たちの笑顔が見えたような気がした。
(次は……大切な、人たちと……あたしの、大好きな……皆、と……一緒に……)
眩しい笑顔につられて、泣き笑いみたいな表情を浮かべた瞬間、ブツリと何かが切れる音が聞こえたような気がした。
それを最期に意識が途切れ、―――あたしは死んだ。
to be continued...