06.相違 ( 2 / 5 ) [栞]



――ズガガガガガッ!


思考に沈む意識を、五発もの銃声が切り裂いた。
ハッと我にかえって、思考から意識を切り離す。

現実に意識を戻せば、放たれた銃弾が着弾したのか、一匹の狼の身体がザァ、と砂に環る様が見えた。

攻撃された事を悟ってか、牙を剥き、残った一匹が走り来る緑髪の少年に飛び掛かる。
ひぅっと息を飲んだあたしとは逆に、少年――スパーダは焦るのでもなくガードするのでもなく、ただ口端を吊り上げて笑った。

躊躇なく狼に肉薄し、裂帛(れっぱく)の気合いと共に、二刀の剣を閃かせる。


「おりゃあッ!虎牙破斬!!」


斬り上げと斬り下ろしの二段斬りが直撃し、狼は一瞬にして砂となって崩れ落ちた。

それを見届け、スパーダは両の手に構えていた双剣を鞘へと収めた。
ルカとイリアも息をつき、各々の武器を収める。

風に飛ばされ、小さくなった砂の山から現れたコインとグミを拾い、スパーダはそれらを指で弾いて宙に放った。


「チッ、腹ごなしにもなりゃしねぇ」


彼は苛立たしそうに舌打ちし、真上に弾かれた為に重力に従って落ちてきたコインとグミを掌中に捉えた。

スパーダの手慣れた手付きをぼんやりと眺めながら、三人の無事な姿にホッと胸を撫で下ろす。
張り詰めていた糸を緩めた途端、スパーダの足元で取得物の残りを探していたコーダと目があった。

あ、と思った直後、


「あ、リズなんだな。どうしたのだ、しかし」


そう言ってコーダが飛び跳ねた。
コーダの発言に、三人共半信半疑ながらも揃ってこちらを振り向き、苦笑いを浮かべるあたしを見て目を剥いた。


「リズ!?ちょっと、何でここにいるのよ!」

「そうだぜ。
ここは戦場だ、お前みたいな非戦闘員がウロチョロする場所じゃねェだろ」


怒ったように声を荒げるイリアと、非難するかのように眉間にしわを寄せるスパーダと戸惑うルカ。
三者三様の反応に苦笑しながら道に降り、持っていた袋とロッドをルカ達に見せるように掲げる。

匂いで判ったのか、即座にコーダが「食い物か、しかし!」と声を上げて駆け寄って来た。

あたしのブーツにしがみつき、"くれくれ"コールを繰り返すコーダの口に、失敬してきたグミを一つ取り出して放り込む。
ぬ、と唸られたが、コーダは一旦満足したようで、すぐにぬふふと笑った。

笑い方変だけど、やっぱり可愛いかも。

しゃがんでコーダの頭を撫でていると、ルカの小さな呟きが耳に入り、顔を上げる。
見上げた先で、ルカが呆然と呟いた。


「まさか……抜け出して、来たの?」

「「!」」


正確な答えを弾き出したルカに、眉を下げた笑みを向けて小さく頷く。
肯定を示したあたしに、イリアとスパーダは感心と呆れが入り混じった瞳を向けた。


「っは〜、よくやるなァお前」

「全くよ。あんた、見かけによらず勇気あるわねぇ」


立ち上がるあたしに無遠慮な視線を注ぐ二人に、苦笑いを返す。

その時、ふと森の奥へと続く道から走ってくるガラム兵の姿が見えた。
あたしの視線の先に気付いたイリアが、ルカとスパーダに鋭く警告を放つ。


「来た!ガラム兵よ!!」

「チッ。リズ、お前は下がってろ!」

スパーダの言葉に一瞬逡巡するが、実戦慣れしていない自分は邪魔になるかもしれないと判断し、コクリと頷いて三人の後ろへと回った。

着いてきたコーダを横目に、いざという時には直ぐ様振るえるようロッドをゆるりと構える。
道具袋も中身を使いやすいように口紐を緩めておく。

ふと視線を感じて見下ろせば、コーダが期待に満ちた目で食料袋を見つめていたけれど、そちらはしっかり紐を閉じておいた。

心なしか垂れてしまった耳と尻尾に心が揺れるが、今は食料の温存の方が大事なので敢えて心を鬼にして耐える。
ごめんね、コーダ。


「転生者じゃなければいいけど」


不意に聞こえたルカの呟きに思わず首を傾げる。

転生者だと何か都合が悪いのだろうか。
確かに、一般の兵士よりも身体能力も上で、天術も使えるから厄介だとは思うけれど。

でも、ルカ達だって転生者だから条件は同じ筈なのに。

ただ、戦いにくいだけなのかもしれないと思い、無駄な思考を断ち切った。
しかし、その考えが間違っていた事を、もう間もなく知る事となる。


「!! あ、あなたは……!」


お互いの顔が判別出来るほど近づいた時、ガラム兵がこちらに気付き、立ち止まった。
いよいよ戦闘かと身構えたが、相手は武器を抜こうともしない。

何だろう、何だかガラム兵の様子がおかしい。

驚きと感慨のようなものが兵士の顔に現れ、ゆっくりとした歩調で歩み寄る彼はまるで夢でも見ているような足取りで、違和感はますます強くなる。
あたしが眉をひそめると同時に、スパーダが素早く剣を抜き放った。


「転生者かっ!またアスラの仇だな」

「っ!?」


怒鳴ったスパーダの言葉の中に含まれた、アスラの名に驚いた。
どういう事?それにアスラの仇って?

前世の夢の中に出てきた雄々しい武将の名が、何故ここに出てくる?

そもそも、どうしてスパーダがその名を知ってるの?
それに、"仇"って……。

疑問が沸々とわく中で、脳裏で光が弾けた。




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