薄桜鬼原作沿いお試し@



"江戸"とはまた違う活気で賑わう町の中で、一人肩を落とす小さな影。
そのあまりの落胆ぶりに、オレは思わず苦笑を浮かべた。

まぁ、頼みの綱であった人物が長期に渡る不在の最中とあれば、落ち込みもするだろう。

しかし、陽が既に沈みかけている今、悠長にしてはいられない。
"京"の都はただでさえ治安がいいとは言い難い。夜であれば尚の事。

もう既に市井は茜色から紫黒へと染まりつつあり、間もなく夜となる。

そろそろ宿を探さなければ流石にマズイか。
オレは、焦燥と不安に顔を曇らせる彼女の細い肩を優しく叩いた。


「ちぃ、んな落ち込むなって。
良順先生だって一月もすりゃ帰って来るさ」
「椿さん…」


オレの声に"ちぃ"こと千鶴がようやく顔を上げる。


「とりあえずさ、もう暮れ六ツを過ぎたし、そろそろ宿探さね?
オレ腹減って行き倒れそうだわ……」
「ふふっ……そうですね、私もお腹空きました」


おどけて肩をすくめれば、ようやくちぃに笑顔が戻った。

付け焼刃だった男装も少しは板についてきたが、 やはり身に染み付いた仕草や意識せず零れる表情はやはり女のもの。
見る者が見れば容易く気付かれるだろうに、よくもまぁ今まで隠し通せたもんだ。

……正確には気付いた連中もいるにはいたのだが、 ことごとくオレが伸した為、知る者のみぞ知る事実となっている。


「さ、そうと決まったら行こうか。
くあー!やっと飯と風呂と布団にありつける……!」
「もう、椿さんったら」
「なんだよー、ちぃだって久々にその格好から解放されんだから……」


ふと、行き過ぎる視界に感じた視線。
顔は前に向けたまま、目だけで振り返れば此方を見ながら話す数人の男がいた。

欲望の光を孕む複数の目に、胸の底から苦々しい嫌悪が湧き上がる。


「……?椿さん?」


オレの心情など知らず、途切れた言葉に首を傾ける千鶴の手を取る。
二人までなら許容範囲内だったが、三人はさすがに面倒だし、やり過ごせるならそれに越した事はない。

絡まれる前にトンズラするとしよう。


「あ、あの……?」
「ちぃ、ちょっと急ごうか」
「え? あ、はいっ」


千鶴の手を握り、早足に通り過ぎようとした矢先……。


「待ちな、小僧ども」
「っ!」
(……遅かった、か)


肩を震わせた千鶴を横目に、掛けられたら声の方向に視線を投げれば、いかにも浪士といった風体の男が三人。

力量を見る限り、小悪党というには若干役不足だが、下っ端もしくは雑魚と呼ぶのが似合いの奴らだろう。
伸すのは容易だ……しかし、彼等のような輩は伸した後が問題なのだ。

目を付けられた時点で既に手遅れだろう
が、こちらに他意はなくとも、もし仮に彼等のちっぽけな自尊心を辱めた場合、鳥もちも驚く程の執拗さでつけ回される事は請け合いだ。

まったく…器はちっちぇくせに、自尊心だけは一人前なんだもんな。
道中で体験した時の事を思い出し、オレは深々と溜め息をつきながら、千鶴を背に隠してゆるりと向き合った。


「なんか用?」
「へっ、そっちの坊主はガキにしちゃあ随分いい物持ってんじゃねーか」


敢えて刺々しく問い掛けたと言うのに、返ってきたのは下卑た笑み。
そして、舐めるように千鶴の腰を……おっと訂正、正確には千鶴の腰に下がる小太刀を不躾に眺める様は、不愉快以外の何物でもない。

だが、これで一つわかった。

その小太刀を一目見て価値ある刀だと見抜いた事実は、彼等がそれなりに刀を見てきた浪士である事を示す。
また、彼等がその価値を捨て置くには惜しいと考えている事も手に取るようにわかり、オレは眉を寄せた。


(……こりゃあ、伸したらマズいな)


伸した場合、彼等は恥じをかかされた事を根に持ち、躍起になってオレを……そして、千鶴を探すだろう。
人捜しをする為にわざわざ京の都へ来たオレ達からすれば、彼等の存在は障害にしか成り得ない。

ならば、残る手段は……。


「オレ達が預かってやるよ」
(泣き寝入り……はないな)


後ろを一瞥すれば、顔を強ばらせた千鶴が浪士の視線を遮るように小太刀を握りしめていた。
怯みそうになる自身を叱咤するように、下唇を噛む姿は健気としか言いようがない。

やはり此処は、


「ちぃ、逃げるよ!」
「は、はいっ!」


逃げの一手しかないだろう!
素早く身を翻し、千鶴の手を取って夕暮れに沈む京の都を駆け出した。



***

見切り発車して冒頭書いた結果、結末の落っこちる先を見失ってお蔵入りしそうな薄桜鬼原作沿いでした。
あ、オレオレ言ってますが、夢主は一応女性です。
口悪いわ男前だわで、女性的な要素が皆無に近いんですが、一応女性(笑)
千鶴ちゃんを筆頭とした女性全般を大切にし、時々口説きますがそれでも女s(ry
落ちは沖田さんが第一候補で、斉藤さん、左之さんと続き、千鶴ちゃんは土方さんか平助くんの予定でした。




(Comment:0)



|



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -