DQ5お試し連載@
世の中には、不思議な事がたくさんある。
例えば、何で地球は丸いのかとか、どうして人間は言葉を作るようになったのかとか。
何故害虫は減らないのかとか、月のクレーターはどうやって出来たのかとか、唯一無二の親友が昨日まで嫌いだった男子を突然好きになった理由とか。
哲学から身の回りの事まで、世界は不思議で満ちているとあたしは思う。
好奇心の塊だと周囲から評されるあたしでも、さすがに神や悪魔などの目に見えないものには興味を持てなかった。
具体的な証拠も根拠もないから、そんな曖昧なものは信じなかったのだ。
小さい頃は信じてた魔法とか妖精とか、モンスターとかも、人は皆、成長するにつれてそれらが存在しない事を知る。
そう言うあたしも例外ではなく、事実を知ったあたしはひどく落胆して、人間が考えだした絵空事だとそれらに見切りをつけ、夢見る事を諦めた。
だって、そんな存りもしない幻想を追いかけるよりも、日常生活のふとした瞬間に転がっている不思議な事の解明をする方が、ずっとずっと楽しかったから。
だから、すっぱりと信じる事を止めた。
自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の手で調べて、自分自身が感じ取った事のみを信じる事にしたのだ。
それなのに、この期に及んで、どうして今更、今このタイミングでこんな事になってるんだ!!!
【お試し連載・おやゆび冒険記@】
現実逃避という名の思考の海から舞い戻ったあたしは、先程と寸分変わらぬ景色に思わず溜め息をついた。
目の前にある色は、一面緑ばかりだ。
いくら緑色が目に優しいからって、こんなにあったら流石に鬱陶しい。
いや、この際、見知らぬ森らしき景色もこの場所に何故いるのかという疑問も、一旦置いておこう。
問題なのは……
「なんで、こんなに見る物全てがデカいのさ――――ッ!!!!」
常識外れとしか言い様のない、植物や石などの大きさだ。
樹はまだ大木の群生地とでも思えばどうとでも言えるが、流石にただの雑草(?)や岩石があたしの背丈の2倍以上高いのはおかしい。
確かに、あたしの背はそこまで高くはないけれど、それでも日本人女性の平均はある。
それにも拘らず、成長する植物はともかく、大きくなる事もない岩石がこんなにも大きなのは何故なんだ。
「どう見たってここは森だから、落石もある訳ないし…遺跡の残骸、とかでもなさそうだし……火山岩…には見えないし……」
ブツブツ独り言を呟きながら、ああでもないこうでもないと暫く悩んでいたら、やがて一つの仮定が浮かび上がった。
けれど、あたしはその考えを、それを考えついた自分自身すらも鼻で笑った。
どう考えたって、理論的にも現実的にもそれは有り得ない。
現実は、夢物語なんかじゃないのだから。
「……にしても…ここ、どこよ?」
草の隙間に座ったまま、いつもより遠い空を見上げる。
まぁ、この異様な植物の育ち様といい、妙に大きい岩といい、日本じゃない事は確かだろう。
こんな場所があれば、天然記念物だの何だのと祭り上げられ、観光地になる事必須だが、当然ながらこんな場所の話はこれっぽっちも聞いた事が無い。
此所が諸外国だとしても、此所に来た経路だけでも分かれば多少は違うのだが、非常に残念な事にその記憶はない。
―――気付けばあたしは、此所でぼんやりと座り込んでいたから。
覚えていない訳でも、寝ていた訳でもなく、本当にふと気付いたら此所にいたのだから、それ以外に言い様がない。
現在地もこの場所にいる理由すらも見当がつかないまま、あたしは一つ溜め息をこぼして立ち上がった。
(ま、このまま此所にいても埒があかないし…それに、)
あたしの、欲深な好奇心が疼いて仕方ない。
こんな場所での探検だなんて、きっと生涯に一度出来るかどうかの、貴重な体験だ。
それをみすみす逃す手はない。
危険だってあるだろう、けれどそれでも、期待で胸が高鳴って高揚する気持ちが止められない。
あたしは心踊るままに、一人ニヤリと笑った。
「こんな面白そうな場所、探索せずに帰れますかっての!」
そう勢い込み、深く考えもせずに眼前の草の海に飛び込んでいった。
(好奇心、それは災厄と幸福を招く第一歩)
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