それはね、恋だよ


ピンポーンとインターホンが鳴りちらっとモニターを覗く
その四角の中に映っていたのは政宗くんだった
今日は3月14日、俗に言うホワイトデー、先月のバレンタインデーのお返しであろう政宗くんの片手には大きな紙袋がぶら下がっている
「ちっ、いねーのかよ」
小さくだけどいつもの不満げな声が聞こえたような気がした
あたしはなんだか急にドキドキしちゃって今いる場所で固まったまま動けず、玄関の内側から掛かっている鍵を開けることが出来なかった
政宗くんとは遊び友達でその他大勢の中のひとりなんだと四角の中の政宗くんをじっと見つめる
一瞬だけど政宗くんが消えていなくなりかたりと音がしたあとぶちっとモニターが切れて真っ暗になってしまった
「あっ」
音をたてないようにそれでも小走りで玄関先まで向かい、小さな穴を覗く
「もういない」
独り言のように呟き、ふぅとため息をひとつ落とす
かちゃりとゆっくり鍵を開けドアを押せば右端に小さな箱が置いてあった
その箱を数秒見下ろしたあとしゃがんで箱に手を伸ばしそれを大事に抱えた


小学校低学年の思い出、何故今思い出したんだろうと頬杖をつきながら教室窓際の左側にある、海へと続き水面がきらきらと光り輝く小さな川を眺める

「おい、」
しかしなんというのか、幼なじみでもないしただ単に母親同士仲が良いだけで宙ぶらりんの関係なんだなとしみじみ思うた
「‥おい、」
そしてその思い出からもう数年が経過している、今振り返ればもしやあの時のドキドキが私の初恋だったのか、な、

「いった!」
「呼んでんのに気づかねえオメーが悪い」

ノートか何かを丸めた筒状のもので頭をぽかりと、その思い出の彼に叩かれる
小中高と一緒で今回は久しぶりの同じクラス、席も何故か前に政宗が座っているのだ

「一緒に帰ろうぜ、で家に寄れ」
「は?なんで?」
「渡したいモノがあるらしい」

お前のオフクロにだってさ、と政宗が私の顔を覗き込んだ

「どーしたよ?ぼーっとしちまって」
「き、昨日もその前もそんなこと言ってたけど何もなかったじゃない」

そうなのだ、高校に入って同じクラスになってからというものほぼ毎日このようなやり取りを経て一緒に帰るようになっていた
いつもいつも強引で私の都合も気持ちも全く考慮してくれない

「そうだったか?ま、いいじゃねえか」
さっさと帰るぞと私の手首を掴み半ば引きずられるように教室を後にする
掴まれた手首はそのままに廊下を歩き、靴を履き替える時にはさらりと手を離していく

靴を替えたところで顔だけ上を見やれば、政宗が私の前で手のひらを差し出していた

「ー、」
「‥、」

数瞬の間、互いを見つめ合う
その間待ちくたびれたのか政宗が私の手首を取り手のひらを重ねゆっくりと歩き出した

政宗に手を引かれ俯きながらてくてくと歩く
互いの手のひらを重ね指先をも絡ませる、その繋ぎ方に気を取られてしまい彼の歩幅にあわせきれず、自分の足に蹴躓きバランスを崩した

「うわっ」
「おっと」

前のめりになり膝から崩れ落ちるすんでのところで政宗の腕が胸が私を支えた
鞄は前方に吹っ飛んでいる

「あ、ありが‥、」
「しかしお前胸ねえのな」

幼児体型からまだ抜け出せねえか、名前は浮いた噂ひとつもねーしな、と笑いながら私を受け止め政宗の胸にすっぽりと収まった
‥どうせ政宗のオトモダチの色っぽいナイスバディの方達とは違いますよ!
彼の胸を両手でどんと押し腕からするりと抜け出した

「政宗のバカ、嫌いだっ」
「Ah?意味わかんね、どこがどう嫌いなんだよ」

ほら言ってみろ、と政宗が私をじっと見据える

「お、オトメ心もわからないし、いつだって強引で私の都合なんかお構いなしだし自分の気持ちを押し付けるし‥あと」
「あと?」

まず政宗のその瞳は嫌い、だって見つめられたら頬も顔も熱くなるのが自分でもわかっちゃうから
政宗の声も嫌いだ、耳から伝わって頭の中まで満たされてぐるぐる回っていっぱいになっちゃうし
その腕だってすごい力で私を引っ張るし、胸だってあたたかいけど抱きしめられたらドキドキしちゃうし何もかもがー

「嫌い、」

消え入りそうな声でぷいと横を向いている名前の手首を引き包み込むよう緩く抱きしめたのち、己の片方の唇端をあげくくっと笑いながら彼女の耳元に唇を寄せ囁く

「そういうの何て言うか知ってるか?」
「‥、」

それは、恋ってヤツだ─
 








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