ジンクスさえ憎い
「すっげぇ人集りだな……」
「殆ど家族や恋人だしね」
「本当だな…つーか、この行列の先にあんのか?」
「うん。着くまでが結構長いか退屈だよ」
「そうなのか……」
毎年この行列の光景を見て断念していたが、今年は長曾我部くんもいるので何だか安心した。
「長曾我部くんってどっから来たの?」
「高知。高松城がある地域」
「そうだったんだ。部活してるの?」
「前の学校ではバスケしてたが、今はしてねぇな」
「へぇ、何かピッタリな部活だね」
「そうか?」
「うん」
今まで聞くに聞けなかったことを聞く。その時間は私にとって最高だった。たわいもないこの会話で私は嬉しいのだ。
この時間がずっと続けばいいのに、また欲深な私の気持ちが出てくる。
今だけ許してください。今だけは………
そんな馬鹿な願いでさえ惜しくなる。
徐々にルミナリエに近付いていき、とうとう私らの前に現れた。
長曾我部くんはそれを見て「すげぇ!!!」や「眩しすぎだろ!!」などかなり興奮しながら笑っていた。
あぁ、この笑顔だ。私が見たかった長曾我部くんの笑顔は。
「なぁ、苗字、ありがとな!」
「いいえ。次行くときは彼女さんと行って……」
「なぁ、名前って呼んでいいか?」
「えっ!?」
苗字ではなく名前で……私としては物凄く嬉しすぎる話だ。私は迷わず首を縦に振る。
すると、長曾我部くんはまたニッと笑いかけて手を取られた。
「えっ、えっ!?」
「はぐれんなよ!」
長曾我部くんは想像以上に興奮していた。イルミネーションでこんなに喜んで貰えるとは思わなかった。
『光の道を想いの人と共に一緒に最後まで手を離さずに行けたら、その2人は結ばれ生涯一緒になるだろう』
このまま離さずに、通れるだろうか。
でも、ダメだ。私の理性がそれを許さなかった。
私は立ち止まると同時に長曾我部くんも立ち止まる。急に止まったので「どうした?」と声をかけられる。
「………どうして彼女さんと行かなかったの?下見だから?」
「………………いや、違う。アイツが彼氏になってって言ったから彼氏になっただけだ。特にどうこうする関係じゃねぇ」
「来るもの拒まず……ってこと?」
「……あぁ」
肯定された。
つまり、もし……もし、私と……
「もし、さ、私が付き合ってって言ったら…………付き合うの?」
「え………それは……」
…………これはきっと否定なのだろう。つまりは、今の彼女のほうが………
「ねぇ、長曾我部くん」
「なんだ?」
「ルミナリエのジンクス、知ってる?」
「ジンクス?」
「いくつかあるんだけどさ、一つは━━」
長曾我部くんにさっきのジンクスを話す。
あぁ、辛い。今まで知らなかったこの気持ちも何もかもあなたが教えてくれた。
初恋とは恵まれないもの。本当にそうだ。
だけど、今まで恋を知らなかった人にとっては甘く苦しい。それも本当だ。
「それとね、同じ場所のジンクスで、こんなのがあるの」
『光の道を行く途中で手を離せば、その恋人は別れ、一生離れるであろう』
「…………え…」
「長曾我部くんってさ………罪作りが得意な人だよね…」
泣きそうになりながらも、私は繋いだ手を突き放した。
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