初恋は叶わない
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今年の二学期からクラスが1人増えました。
「長曾我部元親です。よろしく」
なかなかの二枚目がこんな神戸でもかなり辺鄙(へんぴ)な場所に来たものだ。そんな二枚目さんは私の隣の窓際にある席に着いた。ここに来るまでかなり皆が「カッコいい……」やら「どこから来たんだろ」等という声が一番後ろにいる自分でも聞こえてくる。
私自身も気にならないというわけではない。
寧ろ気になる。
そんな彼は左手をポケットに入れながら自分の席に着く。
「隣よろしく」
私が声をかけると、間が少しあったが微笑んで「よろしく」と応えてくれた。
もっと笑ったらきっといい男になるのに、勿体無い。
休み時間、転校初日の恒例行事が私の隣で始まる。
「長曾我部くんよろしくね」
「ねぇねぇどっから来たん?」
「どの部活入るん?」
「俺らのダチにならね?」
私はあまりの群がりに驚き、席を外して友達のところに行く。特に女が多いのは気のせいだろうか。
「長曾我部くん一気に人気者やね」
「うん。けど、すぐ冷めるっしょ」
「そうかなぁ。そういうもん?」
「そーいうもんやって。転校初日から何日かしたらね」
「そういうもんかぁ」
休み時間が終わると、皆名残惜しそうに席に帰っていった。
私は席を取られた身なので「やっとか」という思いだ。長曾我部くんはというと、群がる前と同じようにドカッと座って窓の景色を見ていた。案外人懐っこいのだろうか、疲れていないのを見る限りそう思った。
今日に限っては休み時間ずっとそういう感じで、私は邪魔者みたいに席を取られた。
放課後━━━━
早速友達が出来たのか、長曾我部くんは男達と数人の女子と帰っていった。私はそれを後ろから見てるだけだった。…………何だか悔しいような、複雑な気持ちになった。
しかし、長曾我部くんは笑っているけど笑っていないような、そんな顔をしていた。
「慣れていないせい?」
「何が?」
「ううん、何でもない」
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月日は流れ、11月中旬。長曾我部くんの群がりは相も変わらず人気者だった。それに彼女も出来た様子。たった3ヶ月で作れるものなのか、長曾我部くん。
そんな中で私は初めて長曾我部くんと初めて会話をしたのは放課後のことだ。
私は提出物を出し忘れていたので、職員室から教室に帰ってきたときのこと。誰かの声が聞こえた。
1人は女子であろう声、もう1人は、特徴的な掠れ声……長曾我部くん?
私は恐る恐る教室の後ろのドアを開けると、見てはいけないものをみてしまった。
教室の窓際で、長曾我部くんと女子がキスしていた。
「(べ…………ベタすぎやろ!!!)」
思わず突っ込む。
いや、ホンマにベタすぎる。漫画の世界でも何でもないのに。何でここに自分がいるのかが分からへん。
………いや、違う。何でこの2人帰ってないんや?私が職員室行く前は居なかったのに。
「(あの人が、長曾我部くんの彼女さんなんやろうな……多分)」
何だかんだ言って私はその様子をジッと見ていた。すると、長曾我部くんと目が合い、長曾我部くんは彼女と離れた。
これは私はいけなかったのだろうな。
「もうおわり?」
「……先に帰っててくれねぇか?」
「チカくんと一緒に帰るー!」
「俺はまだしねぇといけないことがあんだよ。また今度な」
「えー…仕方ないなぁ………じゃあ帰るね」
そう言って彼女さんは荷物を持ち、教室から出て行った。
私が立ち往生していると、長曾我部くんから「入れよ」と声をかけられた。
私は渋々教室に入り、自分の荷物の前まで歩く。
「わりぃな」
「え」
「教室占領してしまって」
「あ………いや、私の方こそ…スミマセン」
これが初めての会話になろうとは………複雑である…
はぁ…と溜め息を小さくこぼし、私は鞄を持ってさっさと帰ろうと決し、鞄を持つ。
「なぁ、アンタ苗字名前って名前だよな?」
急に声をかけられ、ビクッと身体が驚いたが、私は肯定するために後ろ向きで首を立てに振る。
「一度話してみてぇと思ってたんだ。こっち来て話さねぇか?」
きっとさっきの話ですよね?そうですよね?頭の中はそれでいっぱいだったが、反面長曾我部くんと話せるのが馬鹿みたいに嬉しかった。
私は鞄を握りしめながら振り返る。そこには夕焼けを背にしながら机にもたれかかる長曾我部くん。何となく、絵になる。
そして、私はゆっくり歩み長曾我部くんの近くまでいく。
「さっきといい、すまねぇな」
「いえ……」
しばらく沈黙が続く。
折角のチャンスを私は無駄にするのか……!
「ん?チャンス?何の?」
「なにが?」
「あ、いえ、何でもありません」
「同い年何だから固くなんなよ。………なぁ、ここの地域にはよ、今の時期にイベントか祭りねぇか?」
…………あぁ、なるほど。さっきの彼女のためにかな。
胸が痛む。苦しい。何なんだろう、この痛みは。
「(この時期にイベントか祭りなんて…………)」
あ、と思い出す。多分、神戸のイベントであろうイベントが近々あった。
「…………恋人同士にピッタリのイベントがあるよ」
「あ、いや、そんなのに限らず…」
「電車で15分のところでやる《神戸ルミナリエ》ってやつ」
「神戸…ルミナリエ?」
神戸ルミナリエ。それは元々、阪神淡路大震災から復興を願うためにやったと言われているイルミネーションイベント。大震災で亡くなった人を供養するための道標とも言われている。
今では家族や恋人たちなどが楽しむ恒例行事となった。
「毎年イルミネーションがテーマに沿って形が違うし、イルミネーションが本当に綺麗だからピッタリだと思うよ。それに、イルミネーションの後には屋台もいっぱいだからそれなりに楽しめるはず」
「へぇ……そんなイベントがあったのか」
「イルミネーション三大イベントの一つでもある。もう二つは大阪と京都にあるから遠い」
「なぁ、その神戸ルミナリエっていつ頃あるんだ?」
「えっと………12月の始めから二週間程度……」
「よし……」
何かに意を決して長曾我部くんは私のほうを見る。
すると、いきなり手を掴まれた。
「そのイベント、一緒に行こうぜ!」
「………………え?」
何言ってるの、長曾我部くん……彼女と一緒に行けって。そう言おうとすると長曾我部くんはグイッと私の手を引っ張り、かなり近距離で話を続ける。
「今年はいつから始まるんだ?」
「え………えと、12月2日からだったような……」
「その日予定ないか?」
「ないと言えばないけど……」
「俺もない!行こうぜ!!」
完全に流れに流され、私は長曾我部くんと一緒にルミナリエに行くことになってしまった。
この人、彼女さんどうすんのよ……。
時というものは残酷だ、という言葉が過ぎる。まさにその通りだと私は思う。
流れるなと思えば思うほど早く流れてしまい、そして、早くも12月2日の日が来てしまった。
しかし、私はそれとは裏腹に楽しみでもあった。
このルミナリエにはジンクスがいくつかある。その中の一つに
『光の道を想いの人と共に一緒に最後まで手を離さずに行けたなら、その2人は結ばれ生涯一緒になるだろう』
というもの。
たかだかジンクス。されどジンクス。実際それで結ばれた恋人は多いという。
「何考えてんだか……」
私はきっといい気になっている。いや、絶対にその気になっている。
最低だ。長曾我部くんの彼女に謝らないといけない。だが、私にとってもこれは一大イベント。
最低女の初恋だから
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