あなたが気付くことはないね
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「小十郎、おはよう!」
玄関を出るとちょうど会社に行く所だった小十郎に出くわす。
「名前か、おはよう。お前はいつも元気だな。」
強面の顔が少しゆるんだ瞬間、ドキッと心臓が高鳴る。黒のスーツがよく似合う、まさしく大人の代名詞のような人。
当たり前のように隣に並んで駅まで一緒に歩く。微かに香るムスクの香り、私よりはるかに高い背、少し骨ばった大きな手。全てが私をドキドキさせる。嬉しいのに苦しい。
「学校は楽しいか?」
「うん。」
「良かったな。」
小十郎の声が聞こえる度にまたドキドキ…。その内心臓が壊れるんじゃないかと思う。
小さい頃から知っているのに会うたびに、会話するたびにドキドキするようになったのはつい最近の事。
病気なのかと思って友達に言ったら、それは恋だよと笑われた。それを聞いたら余計ドキドキが止まらない。
「名前、お前大丈夫か?」
「え?何で?」
「顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃねぇか?」
そう言って小十郎の大きな手が額に触れる。顔が更に熱くなってもう心臓が飛び出そうな位にドキドキしてくる。
「だ、大丈夫だから!」
恥ずかしくて手を払いのけると、小十郎がフッと笑う。
「無理するんじゃねぇぞ。」
ポンポンと頭を撫でられる。
私がこんなにドキドキしていても、小十郎はいつも余裕。こうやって子供扱いして…子供だけれど。その大人の余裕が悔しくて悲しい。
きっと小十郎は私がこんな想いをしているのを知らない。知る事も無いだろうし、相手にもしてくれないと思う。
それでも私は小十郎が好きなんだ。
あぁ…悔しい。
気付かねえとでも思っているのか。そんな赤い顔してりゃ嫌でも気付く。今はまだ彼女を見守る立場でありたいと思う自分と、さっさと自分の物にしようという自分と葛藤する。
彼女の頭を撫でながらそんな事を考えている事を名前は気付かねえだろうが。
小十郎は自嘲気味に笑う。
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