公認ストーカー




とある部屋の一室。
そこでは今、2人の人間が資料を広げながら話をしていた。

「で、ここでは…あれ?」
「どうしたのだ半兵衛」
「いや、どうやら僕としたことが資料を忘れてしまったようだ
今誰かに取りに、」
「半兵衛様、こちらですか?」

行かせるよ、と続けようとすれば不意にカタリ、と天井板が鳴る。
何事だと秀吉が視線を天井にずらせばそこからひょっこりと見慣れない少女が顔を出し紙を差し出していた。

「ああ、名前。早かったね」
「半兵衛様の事ですから!」
「……半兵衛よ、お前の知り合いか?」

自分の右腕の反応にどうやら敵ではないようだと認識し、まじまじと名前と呼ばれた少女を見つめる。
しかしどれだけ見ても見覚えがない顔に疑問を持ち問いかければ、半兵衛はさらりととんでもないことを言い始めた。

「秀吉にはまだ言ってなかったっけ?彼女は名前。どうやらどこかの間者らしいよ」
「なんだと…?」

どういうことだとぎろりと睨みつければ少女は慌てたように天井から降りてきて、半兵衛の横に跪く。

「お初にお目にかかります秀吉様。確かに私は元間者でございます。
しかーし、現在の私は半兵衛様の虜、愛の奴隷ですので大丈夫です!」

なにが大丈夫なのかは一切分からないが、垂れていた頭を上げぐっと拳を握り熱弁する少女に秀吉は毒気を抜かれていた。

「終始この様子でね、しばらくは邪険にしていたのだけれど常に付き纏うしどこにだって付いてくる
あまりのしつこさに僕が折れたんだ」

なかなか使えるしね、と続けられた言葉に名前はだらしなく表情を崩す。
褒められたと認識したらしく、半兵衛をうっとりとした視線で見つめていた。
激しくどこかの主従を彷彿とさせるが、気のせいだろうか。
秀吉は気のせいだろうと考えを払拭しつつ、2人の出会った話を聞く。
間者が入ったなど初耳で、次からはこちらにもきちんと報告させようと思いつつ、気付いた。
半兵衛が今まで女性に向けたことのないような視線を少女に向けていることに。
こんな表情を見るのは初めてで、少し目を見開く。
鬱陶しいだなんだと言うわりに、声から苛立ちなどは一切感じられなかった。
自分は1度捨てた感情、だが親友でもあり自分のために働く彼には幸せになって欲しいと願う。









「まて、もしや今回の戦の相手とは…」
「流石秀吉、良く分かったね、名前の雇われていた所だよ」

話を聞いていて思い至った考えを口にすれば、手放しに褒められ少し複雑な気分になる。

「名前の話を聞く限り、ここは豊臣に戦を仕掛けようとしていたようだからね
やられる前にやろうかと思ってね」

突然の戦に対しての疑問は解消されたが、次に呟かれた言葉に完全に私怨ではないかと溜息を吐きたくなった。

「それに、名前の扱いが悪かったみたいで随分と世話になったようだしね」

公認ストーカー
(だけどきっともうすぐ変わる関係)



 






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