やわらかいけど頑なな


比奈子さんはオレを突き飛ばした。そして震えながら、「だめよ」とか「どうしたの、」とか言うから、少し反省した。けど、後悔はほとんど感じなかった。

「突然すぎたとは思うけど、オレは本気なんで」
「…気の迷いよ、黒田くん」
「違う。気の迷いで、何ヶ月も人のこと考えてられるほど、暇じゃないんスよ」

目を泳がせ、左手の薬指を大事そうに包む比奈子さん。ああ、この人やっぱりまだ旦那さんのこと引きずってんだなと思った。

「…そうやって旦那さんに縋るくらいなら、オレにしたらいいんだよ」
「…やめて」
「絶対やめねーっス。そっちじゃなくて、オレを見てほしいから」
「黒田くん…本当に、どうしちゃったの…」
「怖いっスか?」

答えず、左手をぎゅっとしながら俯く比奈子さん。オレを家にあげたこと後悔とかしてんのかな?オレだって本当は怖がらせたく何かねーけど、多分どっかで強引にでねーとこの人は気づかないだろうなと自分を正当化しておいた。

「怖がっても、もう遅いから」

比奈子さんの頬を撫でる。またびくっと体固くさせて縮こまった比奈子さんは、もうオレには「知り合いの年上の女の人」には見えなかった。
この人は今、オレのことを男として警戒していると確信したからだ。

「でも、比奈子さんだって本当は寂しかったんっスよね?だから、オレと微妙な関係続けてた」
「…ちが…わ、私…」
「違うっつーならオレを見て、その左手から手を離して言わねーと説得力ねーっスよ」

オレはまだガキだ。ガキだけど、この人は弱くて無防備な人だってのは、イヤでも分かる。だからこうやって、自分でも驚くくらいにいやな攻め方したほうが転がり落ちると思った。
そして比奈子さんはさらに強く左手を握って、ぎゅうっと目を閉じた。心の中で、旦那さんの名前でも呼んでるんだろうか。そう思ってたら、比奈子さんはゆっくりとオレを見上げてきた。意外と真っ直ぐにオレを見てきた。

「…確かに、私はあの人が死んでから…寂しかった…。でも、私は、そんなつもりであなたのことを見てなかった。弟とか、そんなつもりで、」
「そのつもりだったとしても、14も年下だったとしても、オレだって男なんだ」

比奈子さんに唯一非があるとすれば、そこだと思う。オレを男として一度も警戒しなくて、無防備にここまで踏み込ませたことだ。

「比奈子さんが無防備だったのは悪いと思うんスけど、」

今度は強引に比奈子さんの腕を掴んで、ソファに引き倒した。
最初に抱いた印象通り細い体は、呆気なくソファに沈んだ。

「っ…くろ、だくん…!」
「後は全部、オレのせいになると思うからオレのせいにしてください」

左手に無理矢理指を絡めて、また唇に噛みついた。くぐもった抗議の声と、右手で押しのけられようとするけど、やめたくないし止めたくもなかった。


比奈子さんの体の力が抜けるまで、バカの一つ覚えみたいにキスしてた。…それだけでたってきた。オレの下で泣きながら息を乱してる比奈子さん。めちゃくちゃヤりてぇけど、ヘタレなのか。これ以上する気力がなかった。静かに泣いてる比奈子さん見て罪悪感わいたのもある。
さっきまで無理矢理キスしてたくせに、比奈子さんの頭撫でた。比奈子さんはオレから目をそらして、両手で顔を覆った。

「…こ、んなこと…もう、しないで…」
「…いやだったんなら、やめます」
「……なんでそんな、ずるい言い方を、するの…?」

しゃっくり混じりに聞いてくる比奈子さんは子どもみたいだった。つーか、

「その返しは、いやじゃなかったってことでいいんスか?」

都合のいい解釈を否定しない比奈子さん。ずるいのはどっちだと思いつつ、たってんのが当たるのも気にせずに比奈子さんを抱きしめた。

(…もうしばらくしたらトイレ借りよう)

そんでまたオレがどんだけ比奈子さんを好きかって話して、そんで柔らかくてまるくて弱くて無防備なわりに、頑なな比奈子さんの本心を少しずつ引っ張り出してこうと思った。




20140414

 

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