焼き付いた水色


普段なら絶対に気にもとめない光景だった。見ず知らずの女が、自転車がパンクして困ってる光景は。ただ、屈んで後輪を触っているその背中が、なぜか放っておけないと思った。
じわりと汗ばむ季節で、だけどその人の薄い水色のブラウスからは清潔感を覚えた。伝う汗を拭いながら自転車をとめて、声をかける。

「どーしたんスか?」

声をかけられると思ってなかったのか。びくりと、細い肩が揺れた。そしてゆっくりと振り向いたその人は、オレが思ってたよりも「大人」だった。だけど、柔らかそうな唇だとか丸くなった目だとか。顔のパーツからは幼さを感じたから童顔だなとも思ったし、その後もそう思い続けていた。

「…えっと、そう、みたいなの。ちょっと、困ってて」

ちらりと、カゴをみる。確かに米とか重たそうなもんが入ってて、これでパンクは滅入るなと思った。近くに自転車屋はと思っても、この辺りには確かなかった。

「…ちょっと、待っててほしいっス」

休日の個人練習だから、修理キットは持ってきていた。取り出しつつ、後輪に触れる。やっぱりパンクだったけど、原因が何かまではさすがに特定できねーから、とりあえず応急的な措置をしとく。ロードバイク乗ってりゃこれくらいはままあることで、自分で言うのもなんだけど手慣れてたと思う。
それを隣でじっと、感心したように見られていたから、結構照れた…のは、覚えている。

「…すごいのね」
「自転車、乗ってますから」

照れを誤魔化すようにしつつ、空気をいれて腰を上げる。修理キットは片付けて、隣の女の人を見る。オレにあわせて立ち上がったその人は、思ってたより小柄だった。

「一応直したんスけど、でも、応急的なもんなんで、ちゃんと修理に持ってったがいいっスよ」
「そうなの?でも、ありがとう。本当に助かったわ」

丸い目を柔らかく細めて、またありがとうと言った、人。同級生のとも母親のとも違う、こう…品のある笑みで、むずがゆさを感じた。
なんて返したかは覚えてねーけど、とにかくその場から逃げるように去ったのは、照れだ。
背中とかすげーむずがゆかったけど、水色のブラウスだとか、年上なのに幼さ感じる部分だとか。
そういったもんが離れなくて、オーバーペースで自転車をこいだ。




20140413

 

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