本当に五分前にやってきたから、思わず笑ってしまったシオン。しかも、

「ガチガチじゃん」
「あ、当たり前だろう!」

緊張した面もちと声音、そのうえ赤くなっているのは、東堂だ。明日彼は部活が休みだったから、シオンは今日に決めたのだ。
「東堂の1日を私にくれるなら、その日だけ私は素直に東堂に私をあげる」…と、持ち出した。
東堂は最初、渋った。バカそうに見える東堂は真面目で、意外と思考…価値観が少し古い。が、「東堂のこと嫌いじゃないと分かったし、離れても何か残しておきたくて」と言えば、東堂が折れた。

そして今、ガチガチでフローリングの上で正座していた。コーヒーをいれながら、シオンは言う。

「座布団もソファもとっぱらったから、ベッドに座りなよ」
「?!い、いやしかし!女子のベッドには、」

また火のついたように赤くなり、慌てる東堂。その様子がおもしろくて、シオンはくすくす笑った。
その笑みを見て、東堂は頬の赤みが増した。

「…シオン、今日、色々とオレも、言いたいことがあったのだ」

結局2人でベッドに腰掛け、コーヒーを飲んでいる。 最初緊張していたが、いれたコーヒーのおかげか。東堂の緊張はだいぶほぐれていた。

「んー?なに」
「その、オレは、一度…シオンの踏み込んではいけない場所に、踏み込んでしまったな」

避けていたときの話かと察し、内心苦笑するシオン。が、真面目な東堂らしいと思った。
東堂はカップをテーブルに置くと、隣のシオンの方を向いた。
シオンも、東堂を見る。じっと真っ直ぐに己を捉える、東堂の黒い目。それが一時期辛かったが、色々考え、そしていざこの地を去ると決めたときにあふれた気持ちを認めてしまえば、この視線に含まれた誠実さだとかが心地よく思えるのだ。

「…すまなかった、シオン」
「…いいよ、別に。私も大人げなかったし」

コーヒーを飲みながら穏やかに言うシオン。
以前まであった張り詰めたものがなくなっていると東堂は思った。シオンに何があってここまで心境が変化したのか東堂は預かり知らないが、それでもシオンが今自分を受け入れてくれようとしてくれているのだとは分かった。

「そ、それから、だな」

再び、赤くなった東堂。
ガチガチ、もじもじと実に似合わない擬音が見えるようで、おもしろおかしいなとシオンは思った。そして、大体何を聞こうとしてるか想像できた。

「その…シオン」
「ん?」
「ほ、本当に…オレでいいのか…?」
「ねぇ、頬染めながらそんなこと聞かれたら女子力感じるんだけど」
「なっ!オ、オレは真面目にだな!」

シオンはコーヒーを飲み干してから、カップをテーブルに置く。そして、東堂のカチューシャを奪う。突然カチューシャをとられ、前髪が目にかかる東堂。

「な、何をするんだ?!」
「あんた本当、女顔だよね」
「む…!失礼な!オレだって男だぞ!」
「じゃあ、男だってこと教えてよ」

挑発的に笑いながら、シオンは東堂を押し倒した。ぎょっとしている東堂にシオンは笑いながら覆い被さり、彼の耳に唇を寄せた。

「あのさ、最初から嫌いだったなら…ここまであんたを寄せ付けたりしないよ」

余裕ぶってそう囁いているシオンの耳が赤いのを見て、東堂は本能的にシオンの後頭部に手を回し、ぐっと引き寄せた。
そしてそのままシオンに噛みつくようなキスをしながら、奥底から溢れる衝動のままに東堂はシオンを求めた。

――その日だけ、という言葉について聞こうとも思っていたのに、若い衝動と欲求がその思考をかき消した。

いなくなる彼女に、自分を刻みつける…。
その行為は気持ちよかった。
刻みつけられることを受け入れているシオンの姿に、ぞくぞくした東堂。

欲求と衝動が思考のほとんどを支配していたが、どこかで叫んでいた。
この日だけだなんていやなんだと。
遠距離になってもいい、どこかでシオンと繋がっていたいと。

そう願ったのは、東堂の本能は悟っていたのかもしれない。
どんな形であれ、シオンと自分は離れたらもう二度と会えない運命にあるのだと。

「…好きだよ、東堂」

かすれた声でそう言いながら抱きついてきたシオンがどんな表情をしていたのか。
東堂には、知る由もなかった。


シオンと東堂は、初めてを互いに捧げた。
普通のカップルなら、少しの恥ずかしさを覚えつつ、幸福な空気に包まれながら朝を迎える。
しかし、東堂は物悲しさを覚えた。
好きだという言葉も聞けたのに。
その理由は、分かっている。
シオンが、箱根をでると自分ともそれで終わりにさせようとしていると。東堂は…それはいやだった。たとえ、いわゆる遠距離になってもいいから、シオンと恋人になりたいと思った。しかし、シオンはそれを拒んだ。

「私、それに耐えられるほど強くないし」

シャワーを浴び、まったりしていたシオン。東堂は、やはり納得がいかない。

「しかし、こうやって同じ気持ちなのに…!」
「東堂、あんたがそう思ってくれてるのは嬉しいよ」

タオルで髪を拭きながら、シオンは東堂の頭をわしゃわしゃと撫で回した。まだカチューシャをつけてないため、洗い立ての髪がぐしゃぐしゃにされる。

「な、なにを、」
「ただね、東堂。あんたが私を選ぶなら、私はあんたから私以外のすべてを奪うことになる」
「 …え?」

どういう意味だと、深く聞こうとした東堂。シオンはほんの少しだけ微笑んでから、 東堂に言った。

「東堂、朝からしちゃう?」
「んなっ?!じょ、女子がそういうことを、んむっ?!」

結局ヤッたというか一度ヤられ、その流れのままその日は休みながらセックスをしていたようなものだった。
10代の若い2人。しかもかたや自転車乗りで、かたや喰種。精も根もつきるまで、求め合った。




20140404
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