テレビは今、箱根の喰種対策局前に喰種の死体が捨てられていたという話題で持ちっきりだった。
…犯人は、シオンだ。
元々自殺者の死体を探しに行ったら、あの場面に出くわしたのだ。東堂を見殺しにするなどできず、鱗赫の喰種を倒してしまった。わざわざ赫包を食いちぎったのは、あの喰種に対する罰のつもりだった。ものすごくまずかったが、赫包を失ったことで回復ができなくなったあの喰種が絶命したため、捨てた。…のだが、それが喰種対策局前だったとは、シオンは朝になって頭を抱えた。高ぶっていたとはいえ、なんてところに捨て去ったんだと。しかも赫包なんか食べて、気持ち悪かった。喰種の肉は、喰種でもおいしいとは思えない。それを喰うのはよほどの悪食だ。

シオンは水を飲んでから、不定期に連絡をとっている四方に連絡をいれるために、携帯電話を取り出した。


しばらく、シオンは学校に来なかった。東堂はそれに心配と不安を抱き、何度もメールや電話をしたが返事はなかった。 それがまた東堂の不安を煽り、落ち着きなく過ごしていた。

「ウゼェ!そんな気になるなら、見舞いにでも行きゃいいだろォ!!」

荒北にそう背中を押されて初めて、東堂はシオンが生活をしているマンションを訪れた。質素で古びたマンションで、オートロックのエントランスはない。シオンの部屋は三階の角部屋だった。

(…いる、だろうか)

一応、連絡はメールでしておいた。手みやげには、いつも食べていたジャムパンにした。あまり食に頓着しないシオンは、ケーキなどを持って行っても喜ばないだろうとジャムパンにした。
東堂は一度唾を飲んでから、インターホンのボタンを押す。
どうなるだろうかとはらはらしていると、割とあっさりドアが開いた。どきっとしたが、扉からシオンが顔を出したため、東堂は安堵した。その顔が平素通りだったことと、ここに彼女がいてくれたことに。

「…っ、心配したのだぞ、シオン!」
「……うるさいから。なに?」
「見舞いだ!担任からきいたぞ。事件のことが怖くて、休んでいたのだろう?」

今回の事件でショックを受けた生徒は他にもいた。カウンセリングが設けられたり、シオンのように通うのを怖がる生徒がいた。

「無理もないな。ここではああいう事件は今までなかったのだからな…しかし、ちゃんと食べているのかとか心配だったぞ!返事もしないし」
「気持ち悪くて寝てたの。びびって休んでただけじゃないし。軽い腸炎になったの」

聞いてないの?と聞かれ、東堂は担任の話を思い出す。そういえば体調云々も言っていたが、まさか腸炎だとは思わなかった。

「む、そうなのか?なら、このジャムパンもやめておいた方がいいな」
「なに、お土産?」
「ああ、シオンはこのジャムパンが好きなのだろう?だから買ってきたのだが…腸炎なら」
「…いいよ、もらう」

シオンは東堂の手からジャムパンを受け取った。ジャムパンが入った袋から東堂に視線を移したシオン。気だるげなシオンの様子に、東堂はそろそろ帰るかと思った。体調が悪いなら長居は邪魔にしかならない。

「オレはそろそろ帰るから、安静にしているのだぞ」
「もう治ったし。つか、あんたも気をつけて帰りなよ」
「む?」

シオンは、東堂の腕を指差した。そこにはあの目だし帽の喰種に襲われたときにできた傷があり、絆創膏が張ってあった。

「自転車から落ちたかなんかか知らないけど、怪我気をつけたら?」

口調は素っ気なかったが、その言葉には案じるものがあった。それを東堂が噛みしめてる間に扉は閉められたが、東堂は思わずガッツポーズをした。
そして、気づく。
シオンが今まで自分に向けていた拒絶が、だいぶ薄れていたことに。
東堂は再びガッツポーズをした。

「…あいつ、何で二回ガッツポーズしたんだ…」

なかなか帰らないからドアスコープから様子を見たら、東堂は二度もガッツポーズをして帰って行った。機嫌よさそうだった。
…シオンは東堂を見たときに、安心した。あの喰種に襲われたときにできた傷は、大したことなさそうだと。自転車に乗れないほどの傷だったならどうなっていたかと思うと、気が気じゃなかった。

「……」

頭を振り、シオンは玄関からソファに座って待っていた人物に声をかけた。

「ごめん、ヨモさん。話の途中で」

謝りながら、ジャムパンをカウンターの上におくシオン。その背中を見るのは、髭を生やした20代後半くらいの男だった。感情の読みとりにくい目をしているが、彼が面倒見がよくて優しい性格をしているのだといのは知っている。

「…さっきの騒がしい男が、お前が前話してた男子生徒か?」
「そう、うっさいっしょ?」
「…それで、お前はそいつのことも含めて、どうするんだ?」

いつもの落ち着いた調子で、四方はシオンに問いかける。シオンは目線を泳がせる。

ーーシオンが連絡をいれてから、四方は来てくれた。やらかしたシオンを案じ、「食料」を持ってしばらく大人しくしているように言ったのだ。

「どう、しようか」

困ったように眉尻をさげ、苦笑するシオン。
四方はそんなシオンにため息をつく。

「…今回のことで箱根の喰種対策局はしばらく騒がしいだろう。今までよりさらに生活しづらくなる」
「…ですよねぇ」
「今までの生活がしたいなら、バックアップならしてやる。が、今まで以上に生きづらく、危険が増したことは頭に叩き込め」
「…はーい」

本当にやらかしたことを後悔、反省し、ソファに座って背もたれにだらっともたれかかるシオン。そんな彼女に、四方はあることを告げる。

「…9区から逃げ出した、喰種の徒党がいる」
「え?あー、相変わらずそっち物騒なのかぁ」
「もしかしたら、お前が殺した鱗赫の喰種はそのメンバーだった可能性がある」
「なるほど。報復されるかなぁ」
「そしてそいつらは本局のハトに目を付けられていて、近々ここに本局の上等捜査官が派遣されるらしい」
「…は?」

天井を仰いでいたシオンは、四方を見る。四方もその視線を受け止めながら、 情報を伝える。

「お前が殺した喰種がその徒党の喰種なら、新たな喰種がいる可能性がいるとハトは考えるかもしれない。そうじゃなかったとしても、徒党を組んだ喰種たちの仕業と思い、警戒を高めるだろう」
「……ほ、本当になんであんなことしちゃったんだろ…!」
「…俺だけじゃなく、芳村さんからも慎重に生きろといわれていただろ、お前」

ぐさっ!と四方の言葉がシオンに刺さった。
それは「本当に仰るとおりです」と思ったのと、己の迂闊さに嫌気がさしたからだ。自己嫌悪で額を抱え、ため息をつきながらシオンは考える。 これからの生活、それから…東堂のことを、少し考えた。

「…結構、気に入ってたんだなぁ」

四方は何を、とは聞かず、シオンがいれたコーヒーを静かに飲んだ。




20140404
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