火野シオンは、箱根学園で浮いていた。
誰とも仲良くならず、どこにも属さず、誰とも群れず、ただ学生として過ごしていた。友達もおらず、クラスメートとも喋らずにいた。そんな彼女に積極的に関わってきたのが、なぜか箱根学園でモテモテでリア充してそうな、東堂尽八だったのだ。
ジャムパンばかり食べていたからかと、いまだに後悔しているシオン。しかし、ジャムパンひとつでも食べたらそのあと吐き出さなきゃいけないのだから、これ以上食べるふりをする物を増やしたくないのが本音だ。なのに、東堂は(シオンが喰種と知らないからだが)もっと食べろとすすめてきて、たまに昼食のときに購買で買ってきたパンをシオンの口にねじ込んでくるのだ。お節介にもほどがある。

「…あんたなんで私に構うの」

押しつけられたコロッケパンを食べる。ソースの匂いは、喰種のシオンからすれば24区を通る際に通ったドブの匂いを思い起こさせた。それを感じないよう、適当に噛んで味を感じる前に飲み込む。「よく噛め」と今まで言われていたが、もう最近は東堂も諦めたのか、それは言わなくなった。
東堂はシオンを見て満足そうにしつつ、こう言った。

「女子が一人寂しくジャムパンを食べていたら、声をかけずにいられんだろう」
「なんてうざい余計なお世話…」

コロッケパンをさっさと片付ける。あとで吐き出さなきゃと思いながら、口を拭う。シオンが食べ終わったのを見て、東堂は誉めてくる。

「うむ、偉いぞ、完食したな!」
「う、うざい…」
「うざくはないな!友達として心配しているだけだ」

またでた、友達という言葉。
それは時折、シオンの神経を逆撫でした。

「…私はあんたのことそう思ってないけど」
「この間も聞いたな」

東堂は揺るがず、ペットボトルのキャップをあけて中の水を飲む。シオンもさっき買っていた、缶コーヒーを開ける。水を飲んでから、東堂はまた口を開いた。

「最初はさすがにショックだったぞ。…が、よくよく考えればオレの世話焼きから始まったことだ。お前がオレのことをそう思ってなくても、仕方はないな」

缶コーヒーを飲んでいたシオンは、意外だと思った。騒がしく世話焼きなイメージしかなかったから、こんな風に考えられる男だと思っていなかった。

「…あんたって、そんな風に考えられるんだね」
「シオンは本当にオレに失礼だな」
「正直なのよ」
「うそをつけ」

正直発言ははねのけられた。冗談っぽくではなく、割と真剣なトーンで。シオンはぎくりとした。喰種であることを、隠しているから。思わず缶コーヒーを持つ手に力が入った。
シオンの様子の変化に気づきながらも、東堂はそれについては言及しなかった。

「シオンが人と線を引いていて、何かを打ち明けたがろうとしてないのは分かっている。気にはなるが、オレにはそれを強引に聞き出す権利などないから、聞かない」
「……」

シオンが思っていたよりも、東堂は観察力があってシオンのことをよく見ていた。そして秘密があると気づいたうえで、今のシオンのあり方を否定せず、秘密に触れないというのだ。
シオンは、その観察力が恐ろしいとおもった

「だが、シオン。そのままだと、お前は一人なのではと思うと、オレは心配だ。今はオレがいるからいいが、」
「東堂」

話を遮られた東堂は、シオンをみる。その目がぎょっとしていたから、そのときの自分がどんな表情をしていたかは分からないが、

「あんた本当、うざい」

シオンは己を守るために、ありったけの拒絶をその言葉に乗せて東堂に吐き捨てた。




20140403
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