キミイロデイズ | ナノ




居候をさせてもらっている身だからと、福富は自分ができることは進んでやった。「旦那が海外出張で男手が必要だから助かるよ」と叔母は言ってくれた。何もしないでいい、は逆に自分が申し訳なくなると感じる性分だというのを、叔母は理解してくれていた。
そして叔母の言葉は気遣いではなく、事実でもあった。叔母は働くのが好きで、仕事で遅くなることがたまにあり、そういうときは気兼ねなく福富にお願いするのだ。

『ごめんね、寿一くん。今晩遅くなりそうなの。何か作れるなら作ってくれてもいいし、デリバリーとか外食でもかまわないから、郁と夕飯とってくれない?』

こういった具合に。
もうひとつ、明日の米を炊いていて欲しいというお願いを受けてから、福富は受話器をおいてテレビを見ている郁に声をかけた。
平日にあってる女児向けアニメだ。やはり福富には日曜日のと違いが見た目だけでは分からないが、どうやら日曜日のほうは平和を守っていて、こちらはアイドルをしているらしいというのは、郁の熱い説明でわかった。

「郁、叔母さんは今日遅くなるそうだ」

電話の旨を告げれば、テレビから福富へと視線を向ける郁。集中していた目が、寂しさで揺れていた。

「…そっかー。ママ、おそいんだねー…」

本人的には寂しさを隠しているつもりなのだろう。しかし、寂寥感がひしひしと伝わってくる。普段明るく、自分に懐いてにこにこしている郁がこうなると、福富はつい郁を甘やかしてしまう。

「夕飯はなんでも食べていいそうだ。郁の好きなものでいい」

叔母からこういうときのための食費用としてのお金は、別で預かっている。そのお金を使えば、叔母が言ったようにデリバリーも外食も好きなものを食べることができる。大学生はお金がなく、あっても自転車のメンテナンス代だとかに消える福富からしたら、至れり尽くせりすぎるくらいだった。
そして郁がレストラン、というならケーキのひとつくらい頼むかなどとと考えていると、郁はこういった。

「あまくちの、カレー。じゅいちちゃん、つくって?」

想定していなかったリクエストに、鉄仮面福富は面食らった。


カレーくらいなら作れなくはなかった。材料もあった。甘口のカレーというリクエストを受け、福富も子どもの頃に好きだったあの黄色いパッケージのルウを取り出す。

「おてつだい、する」
「いや、今はいい。包丁と火を使うからテレビを見てていい」

作れなくはないが、料理自体は不慣れだ。もしも何かあって郁にけがをさせたらという可能性があったため、福富はそう言った。郁は返事をしてから、ソファーに向かった。テレビは今、モンスターを捕まえて旅をするアニメを放映していた。

あとはルウをいれて煮込むだけ、となったときは、とうに子ども向けの番組は終わっていて、アイドルの冠番組があっていた。そういえば静かだと思い、手を拭いてから居間の方へと歩き出す。

「郁、」

もう少しでできるぞと言おうとしたが、飲み込んだ。待ちくたびれたのか。あるいはテレビに飽きたからか。郁はクッションを抱えて、丸くなって寝ていた。

「……」

福富は郁の頭を撫でてから、腹を冷やさないようにとタオルケットをかけてやる。小さな体はすっぽり収まり、すやすやと気持ちよさそうに寝ていた。

煮込み終わるまで後少し。
そしてできあがれば、この小さな従姉妹を起こして遅めの夕飯をとるのだ。
きっと第一声は、「おなかすいたよ、じゅいちちゃん」に違いない。

そんな他愛のないことを考えながら、冷蔵庫に保存してあったご飯を電子レンジにかける福富。
にこにこと甘口のカレーを食べるであろう郁を思えば、鉄仮面の口元も緩んだ。




20140319


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