とりあえず暑さのせいにしておけ

高校生になってからは、早寝早起きが当たり前だった。部活のために、それを心がけている。自転車競技部に高校三年間の全てを捧げると決めていたため、それに対しての不平不満はない。自分で決めたことなのだ。だから部活のときは部活のことを、授業中には授業に集中している。
それは休みの日にも言えたことで休むときはしっかり休んで、遊ぶときは遊ぶと徹底していた。そのオンオフの切り替えは精神的にも肉体的にも大事だと、倫子はその三年間で学んだ。

そしてその日、倫子は友人たちとプールにきていたのだが、

「…なんであんたたちと会っちゃうかなぁ」
「テメェたかっといてその言いぐさか」

東堂、新開、そして荒北とプールで遭遇してしまったのだ。倫子の友人たちはそれぞれ新開、東堂派で、すっかり二人に友人をとられてしまった。女の友情はこういうときは紙切れのようだと思いながら、荒北に買ってもらったジュースを飲む倫子。隣に座っている荒北は、倫子のぼやきに元々不機嫌そうだった顔をさらに歪めた。
大方、新開と東堂に無理矢理連れてこられたのだろう。しかしややオーバーワークの気がある荒北を見ていれば、マネージャーとしては新開と東堂にグッジョブと言いたいところだ。今日、日付がだぶらなければ。

「まぁ、荒北はほら、泳がなくてもここでゆっくりしてたらいいよ」
「オメェは泳がねーのか、ブス。…ああ、泳げねーのか」
「失礼ね、泳げるわよ」

メロンソーダがおいしい。紙コップの表面に汗をかいているのをみて、ああ、夏だなぁとぼんやり思った。隣の男は、暑さと苛立ちで最高に不機嫌そうだが、友人たちがそれぞれの好きな人ときゃっきゃっうふふしているのを見ていたら、来てよかったと思えるのだ。
だが今泳ぎにいっても、浮いてる感があるから絶対に混ざりにいかないと決めた。泳ぐとしても別のプールに行くべきだが、一人で泳いでも仕方ない。しかし、やはり泳ぎにきたのに泳がないというのは勿体ない気がしてならない。…となると、手段はひとつしかない。隣の不機嫌全開の男のほうを倫子は向く。

「荒北くん、あのさ、お願いがあるんだけも」
「絶対ェいやだ」
「まだなんにも言ってないわよ」
「オメェがオレのことをくんづけで呼ぶときはろくなときじゃねーヨ」

ふんと鼻を鳴らす荒北。なんてかわいげのない男だと、倫子は改めて思った。

「ちょっとあっちのプール行くからついてきてってお願いしたいだけなのに」
「一人でいけ」
「ひどい。それで一人で行って、知らないおじさんや強面のお兄さんにやらしいことされたら、福富や東堂に怒られるのは荒北なんだからね」
「寝言は寝てから言えヨ、ブス」
「ひっど!もういい、あんたに頼んだ私がバカでした!」

ちょっとくらいいいじゃないと思いながら、紙コップを置いてパーカーを脱ぐ倫子。新しい水着は、ようやく全部日の本に晒される。お腹周りの肉付きが気になり、ワンピースにした。かわいい花柄で一目惚れしたのだ。
パーカーを背もたれにかけてから、倫子は腰を上げる。ふとヒップラインの食い込みが気になり、指先で直してからウォータースライダーのあるプールに行こうとした。

「…おい、ブス」
「なによ」

喧嘩腰で振り返れば、荒北が腰をあげていた。そして目を泳がせながら、あーとかうーとかもらしつつ、渋々と言った体で言うのだ。

「…仕方ネェから、行ってやるヨ」
「はぁ?なに、急に」
「ウッセ!さっさといくぞ!」

大股で歩き出す荒北に、不思議がりつつもついていく倫子。自分よりも高い位置にある荒北の頭を見ながら、倫子は尋ねる。

「あんたなんで耳赤いの?」
「ッ!」

荒北の脳裏に、水着の食い込みを直す倫子の仕草がよぎった。

「ッセ!暑いからに決まってんだろォ!!」

さっさとプールに飛び込んでしまおうと急ぐ荒北。そのあとを、やはり荒北の態度に疑問符を浮かべている倫子は、小走りでついていった。




20140311
フォロワーさんへ
(4/11)
前へ* 目次 #次へ
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -