コミュレベルいくつ?世の中とはうまくいかないものだ。極端なことになると、そう嘆きたくなるのも仕方ない。倫子はまさに、そんな心境だった。 「あのさ、前から思ってたんだけど、私って女子扱いされてないよね」 昼休み、ミーティングが終了した頃合い。主将福富、副将東堂、直線鬼新開、狼荒北。箱根学園自転車競技部主力メンバーという豪華な顔ぶれの中に、不服そうな少女が一人。肝っ玉マネージャー、倫子。不服に感じてるのは、さっきの発言の内容である。 「?オレは久瀬とはいえ女子としてカウントしているぞ!」 「うん、そういう言い方いらつくけど、東堂は確かにそうね」 こういう言い方が腹立たしいが、東堂は部内で倫子によくしている人物だ。フェミニズムは染み着いているらしい。物言いがほかの女子のときと違って多少雑だが、 それでも誰よりも気遣ってくれているのだと倫子は思う。それは自分だけじゃなく部員や後輩にもできていて、東堂は細やかな気配りが基本的に誰にでもできるのだと思う。福富が副将として東堂を選んだのにも納得がいく。 ちなみに、紳士的という意味では泉田も同じだった。後輩の中で紳士泉田と、天然葦木場は倫子の癒やしのようなものだった。 「オレも、お前は女子だと思っているが」 鉄仮面をやや不思議そうにさせている福富。こういうときに言葉通りにしか受け取れない福富は、結構恋愛で鈍感なのかもしれないと倫子は思う。 「うん、福富も違うわね。いつもバス停まで送ってくれてありがとう」 部活の片付けや部誌をつけて遅くなった倫子を、バス停まで送っている福富。それは一年の頃から続いていて、そのせいで「福富と久瀬はつきあっている」という噂が生まれ、いまだに根付いている。しかし二人にその気はなく、真面目な福富が遅くに女子をバス停までとはいえ一人で歩かせるわけにはいかないと思い、善意でしてくれているのだ。しかも毎回福富というわけではない、本日は委員会のほうにでている男子マネージャーの不知火が送ってくれることもある。そして福富とバス停まで話すことといえば部活のことで、甘酸っぱいものなど芽生える余地はない。 お堅い福富と真面目な倫子は、互いに信頼しあってこそいれど、部長とマネージャーとしてであり、それ以上には発展しない。 「…じゃあ、ナァニィ?久瀬はオレらとか他の奴らが気にくわないって言いてェのォ?」 「オレは結構おめさんのこと女扱いしてるつもりやんだけどなぁ」 ベプシを煽ってからめんどくさそうに言う荒北と、メロンパンを食べている新開。この二人だけに、というわけではないが、この二人も含まれているのだ。ので、二人にも言う。 「気にくわないってほどではないけど、もっとほかにあるでしょ?!ってなる。私がいても普通に下ネタしてるじゃない。特に新開」 「そこはほら、男だから仕方ないって」 悪びれもしない。いや、今に始まったことではない。新開は優しくして気さくだ、一緒に遊ぶと楽しい。しかし、それとこれとは話が違う。倫子だって思春期の女子だ。女子同士でそういう話になることだってあるし、思春期男子が性欲旺盛だと言うのも理解はしている。ただ、それと目の前で下ネタされ続けても平気かはイコールではないし、倫子が掃除で入ると分かってる部室や更衣室にエロ本を無造作に置いていたりするのは勘弁してほしいと思う。閉じてある状態ならまだいいが、モザイクかけられてるようなページをばーん!と開いた状態でベンチに置いてあったときはさすがに頭を抱えた。 「ハン!真面目チャァンらしい小言だナァ」 バカにしたように言う荒北に、倫子はしれっという。 「あんたが一番ひどいけどね」 「ハァ?オレの何がどうひどいってんダヨ」 臨戦態勢になる荒北。と言っても、殴るためのではない。あくまで口論の姿勢だ。それを見て東堂と新開は、またかとばかりに片付けを始め、福富も呆れのため息をつく。 昼休みが終わるまでの時間は、もうあまりない。理数科で棟が違う倫子の心配を福富はした。が、そんなことに気づいてない荒北と倫子の口論は始まる。 「自覚ないの?やだ、悪質。人のことブスとかいうし、すぐ怒鳴ったりしてくるし、女子に接する態度じゃないわよ」 「女子ィ?うちに女子なんていネェだろ、いるのは小さいメスの子豚だろォ」 あ、口論終わったなと思った東堂と新開。 その直後、荒北はビンタされていたので、福富は再度ため息をついた。 (というか、靖友…そんな手段でしか久瀬の気を引けないおめさんが少し哀れだぞ…) (まったくもって美しくないやり方だ、荒北…) ぎゃんぎゃん喧嘩を始めた二人と、それを止める福富を見ながら、新開と東堂はとりあえず荒北へのエールを飛ばしておいた。心の中で。 結局、倫子の扱いが改善されることはなく、倫子が諦めるという形でこの問題(?)は解決されたのだった。 20140302 (2/11) 前へ* 目次 #次へ |