後輩Kはかく語りきマネージャーの久瀬さんは普段はちょっと気が強いけどしっかりしてて、結構とっつきやすい人だと思う。見た目はおとなしい文系って感じだし、気が強いと言ってもそれが喧嘩っ早いかと言われたら違うし。だけど俺たち後輩からしたら、「怒らせたらいけない人」の中でも上位にはいる先輩だと言ってもおかしくはない。でも、普段は叱ることはあっても誰かに怒ることはしない人だ(一部を除く)。じゃあなんでそんな人を怒らせたらいけない人って認識したのかというと、俺たち二年が入部したとき…つまり去年、怒った久瀬さんを目の当たりにしたからだ。怒らせたのは俺たちじゃない、荒北さんだ。 今となっては俺たちも慣れた光景だけど、初日に二年の先輩が小柄なおとなしそうな女子マネージャーに思い切りビンタされてるの見たら、誰だって「このマネージャーさんだけは怒らせたらいけない」って思うはずだ。 しかもその直前まで、俺と荒北さんの間には一触即発な空気あったから、なおさら。あのヤンキーっぽい先輩相手に…って、俺もちょっと思った。 「ッテェな、ブス!」 「一年生並べて何してるのかと思ったら!なんで一年生相手に喧嘩しそうな雰囲気になってんのよ!」 「するワケねェだろ!福ちゃんから止められてるしヨォ!」 「じゃあ少しは態度改めなさいよ!一年生怖がってるじゃない!あんたただでさえ目つきと言葉遣い悪くて、まだヤンキーっぽいんだから!」 「オメェには関係ねーだろバァカ!!」 いや、あなたも結構怖いです…なんて、思ったのは絶対に俺だけじゃなかったはずだ。 それがまぁ、久瀬さんの第一印象で。でも部活中とかに久瀬さんが声荒げて怒るとかは、実際ほとんどなかった。あってもそれは大体荒北さんと喧嘩してるときくらいで、慣れてくればまたかって流せるようになった。流せるようにもなったし、荒北さんがやたら久瀬さんに突っかかる理由も分かってきた。 最初俺は荒北さんのことすげー嫌いだったから気づいても、「そんな態度でいるから」とか思ってた。けど今は荒北さんのこと尊敬してるし、こえたいと思ってるからなんというか…。 「荒北さん、いつまで久瀬さんにああいう態度でいるんですか」 見ててまどろっこしいし、早く男らしく決めて欲しいと思ってついこんな余計なことを言ってしまった。 外練のインターバル中。思わず口をついてでた俺の言葉に、荒北さんは思い切り顔をしかめた。 「ッセ。あのブスがかわいげねーのが悪ィ」 深く汲み取ってようがなかろうが、荒北さんは一応自分の久瀬さんに対する態度がよくないという自覚はある、といってるような返しだった。荒北さんは素直とはいえない性格だけど、久瀬さんが絡むと余計そうだよなと思った。好きな子ほどなんとやらなタイプだなと、改めて思う。 「…そういえば、俺のクラスの奴が久瀬さんのこと気になるって言ってました」 「…ヘー。そいつ、久瀬の見た目に騙されてるんだろうナァ」 とか言いつつ、不機嫌になるから本当早く告白なりなんなりして欲しい。普段の喧嘩が荒北さんが素直になれてないからだから、なおさら。しかも荒北さんたち今年で卒業なのに、(東堂さんによると)一年生の頃から二人の間になんにも進展ないらしいから、こっちがなんか勝手に焦ったりとかしてしまう。 (でもそんなこと言ったらこの人余計こじらせそうだな) 分かりやすく嫉妬とかはしてる人なのに、と思いながらスポーツドリンクを飲んで汗を拭った。 20140728 (10/11) 前へ* 目次 #次へ |