かわいい子にはなんとやら

倫子は洗濯機に向かい、大きな後輩を見つけた。カゴを抱えなおして、覇気を感じない背中に声をかける。初めて見たときはその身長に驚いた。そして今は、見上げるのに首が痛い。あと手の掛かる後輩だと思ってる。

「葦木場」

名前を呼べば、ぼうっとしていたのか。葦木場はびくつきながら倫子を見てきた。視線を受けつつ、倫子は洗濯機にタオルなどを入れた。

「お、お疲れさまです」
「ん。練習は?」
「オ、オレ、洗濯物頼まれたんで…」
「頼まれても私に回しなさい。あんたは選手、私はマネージャーなんだから」
「で、でも」

なおも、葦木場は躊躇う。天然でかわいいと思ってはいるが、葦木場がここまで躊躇う理由が分からなかった。

(…そういえば、葦木場が最近自転車に乗ってる姿、見てない)

むしろここで会う頻度の方が高いのだ。葦木場一人だけをずっとみているわけではないから確信はないが、葦木場は乗れていないのではないかと思った。

「…葦木場、次もし誰かから頼まれたとしても、すぐに私か不知火に言っていいからね」
「!で、でも、先輩に」
「先輩でも私と不知火はマネージャーなの、気にしなくていいから」

洗剤を適量入れて、洗濯コースを選ぶ。もう何百回としてきたことで、慣れたものである。

「その洗濯も私が干しとくから。ほら、練習いってきなよ」
「…あ、ありがとうございます…!」

葦木場は嬉しそうに顔を綻ばせ、倫子に頭を下げて走っていった。それを見ながら、倫子は空になったかごを手に呟く。

「やっぱり、乗りたかったんじゃん」

さて、どうしたものかなと考えても、選手としての経験や知識もない倫子一人だけではどうにもならなさそうだった。だから不知火と、それから福富あたりに声をかけておこうと考えた。


「その話なら、新開からも聞いたな」

部活が終わり、片付けなども済ませ、不知火もひっつかまえてから倫子は葦木場のことを不知火と福富に話した。部誌を書き終えた倫子は、くるくるとシャープペンシルを回しながらいう。

「そうだったの?なんか見た感じ、いいように使われてるようだったんだけど」
「あいつ、遅ぇからな。自分の手足の長さが弱点になってるっつーか」

不知火も声をかけ、気にしていたようだ。やはりさすが元スプリンター。倫子とは違う点に気づいていたようだ。福富は不知火と倫子の話を聞き、少し考え込んでから不知火を見た。ここからは、選手と選手だった人間にしか分からないやりとりかもしれないと、倫子は聞き手に徹する。

「不知火、お前ならどうする。自分の手足の長さのせいで思うようにできない選手に対して、なんという?」
「血反吐吐くまでやれることやれっていうな。今のあいつは、 まだ自分のやり方すら見つけられてねーんだから」
「思っていたより不知火は厳しいな」
「優しくすんのは新開とかがやりゃあいいし」
「…で?それで、不知火はなんていうの?それだけじゃないんでしょう?」

倫子はシャープペンシルを回すのを止めて、不知火を見る。 福富も、同様らしい。不知火は、ばらく考え込んだ。

「…出来ないことのが多いなら、できることを探して足掻けっていう」
「本当、あんた意外とスパルタね」
「うっせ!オレはあいつみたいに手足長くねーから的確なアドバイスができるかよ!」
「?不知火は足がそんなに短いとは思わないが」
「…真面目に答えるなよ、福富」

結局、葦木場には福富と新開から何か言うという方向で落ち着いた。不知火もああは言っているが、葦木場を気にしているようだ。声をかけているのを、度々みた。

その後、福富と新開の言葉を葦木場は聞いたのか。葦木場が洗濯機のところにくる回数は減っていき、葦木場の天然っぷりがさらに露呈することになり、その天然っぷりに振り回される部員が増えたのだった。




20140416
(7/11)
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