▼かわいいわがまま

遅いと頬を膨らませて、仁王立ちをしているのは近所に住む子どもだ。名前はなまえ。やたらと人のことを見下してくるんだが、ちょろいところがあるから、まだ可愛いげがある。

「じゅんた、おーそーい!なまえとのやくそくあったでしょー」
「悪かったって」

謝る様子を見せながら、ポケットから飴を取り出してみせびらかす。つんとそらしていた目が、かわいい包装を追いかける。本当にこういうところが、ちょろくてかわいい。

「…ん」
「はいはい」

仕方なくねと言わんばかりに広げれた手に、小さな飴を載せてやる。ぱっとなくなったそれは、あっという間になまえの口の中に消えていく。
ころころと口の中で転がしている様子はもうご機嫌だ。ついでに撫でて見るが、いつものようにつんと振り払われる様子はない。飴さまさまである。

「きょうもきたろーとれんしゅうしてたの?」

こいつの言うキタローはアニメのキャラクターではない。相棒の、青八木一のことだ。失礼だからやめろと言っても聞く気はない。青八木が気にしてないからいいが、それでも注意はする。

「キタローはやめろって」
「じゅんたの言うことききたくなーい」

つーんとそっぽを向くなまえ。飴はまだころころさせている。
わがままめ…という言葉は飲み込む。いえば、機嫌を損ねるからだ。こいつのことは、いくら情報を集めてきっちり計画立てても、うまくいった試しがない。 

「で?今日もやるんだろ、練習」

ぱんぱんと、小さなサドルを軽く叩く。ピンク色の子ども用の自転車。つい先日補助輪が外されたばかりのこれは、なまえのものだ。自転車を見て、飴を噛み砕きながらなまえは頷く。

「する!」

意気込んだなまえの頭にヘルメットを被せてやる。かわいい色のヘルメットには、キャラクター物のシールが貼ってある。オレは知らないけど、女の子に人気のアニメだ。確か日曜日の朝にあっている。その程度の認識だ。そのヘルメットをしっかり被ったなまえは、彼女なりに颯爽と自転車に股がる。

「じゅんた、にぎっててね!」
「はいはい、と!」

中腰になり、自転車の後ろを握っておしてやる。ぎこぎこと、おぼつかずに自転車をこぐなまえ。
やれやれと思う反面、もうしばらくしたら相手にしてやれないからこれくらいのわがままは聞いてやってもいいはずだ。それに、こうも急いで自転車に乗りたがるようになりたがっている理由を知れば、なんてことはない。

(早くオレと一緒に自転車に乗りたい、か)

なまえの母親から聞いたことを思えば、どういうことはない。




20140315
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