▼エネルギーチャージ

インターハイというものがどういうものなのか、また子どもであるなまえにはよく分からない。その価値も、意味も。ただ漠然と、何か大きなことなのだというのはわかっていた。兄のように慕っている従兄弟、田所迅を見ていたらそれは分かった。

「じんちゃん、きょーもインターハイのれんしゅー?」

部活に行く前の田所に、なまえはそう声をかける。田所は寝起きでぼさぼさの頭をしている年の離れた従姉妹の頭を、大きな手で豪快に撫でてやる。

「おう!頑張ってくるからな!」
「ん…じんちゃん、がんばってね」

むぎゅー!と、田所の大きな体に抱きつくなまえ。幼稚園児であるなまえの体は小さく、大柄な田所の体に抱きつくとより小さく見える。その背中を田所が撫でてやる。

――両親の仕事の都合で、田所家で過ごすことが多いなまえ。まだ甘えたい盛りなのにわがままを言わず、大人しく預けられている。そんな小さな従姉妹がいじらしく思える田所は、なまえに対しては無条件で甘やかしている。
田所もまた、なまえを妹のようにかわいがっていた。

「インターハイが終わったら時間ができるからな。たくさん遊んでやるぞ」
「ほんと?なんでも?なんでもいい?!」

抱きついたまま田所を見上げ、顔を輝かせているなまえ。それを見てかわいいと思う田所は毎回、「絶対嫁にやりたくねぇな」と思っていた。すっかり保護者である。

「ああ、なんでもだ!」
「やった!やくそく!ゆびきりして!」

きゃっきゃっはしゃぐなまえの小枝のような指に、田所は自分のゴツゴツした小指を絡める。ゆびきりげーんまんとお決まりの歌を歌っているなまえ。
――本当は両親とこうしたいはずだ。田所も家が自営業だから、似たようなことを経験している。だからこそ、この小さな従姉妹を田所は無条件で甘やかしてかわいがっているのかもしれない。

「ゆびきった!」
「おう!じゃ、行ってくるからな!」

もう一度頭を撫でてやる。きゃー!と言いつつも無邪気に笑って、なまえは真っ直ぐに田所を見つめる。

「いってらっしゃい、じんちゃん!」

とある朝の風景。
なんてことのないこのやりとりが、田所の原動力のひとつだった。




20140310
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