▼ちいさなおくりもの

「じゅいちちゃん、みっけ!」

外周を終えたばかりの福富の背に、幼い声がかかる。覚えのある声に福富は目を見開き、荒北たちは首を傾げながら振り返る。
その視線の先には、黄色い帽子をかぶって空色の幼稚園の服を着た女の子がいて、福富を見てきらきらと顔を輝かせていた。そして福富が振り返ると同時に駆け出し、福富の脚に飛びついた。女の子の着ているコートの裾とマフラーが、揺れる。

「じゅいちちゃん、おたんじょーび!おめでとー!」

珍しく驚きが前面にでている福富に、東堂が頭に?を浮かべたまま問う。

「…フク、この子は…?」
「…従姉妹だ」
「なまえだよ!さくらぐみ!ごさいです!」

脚にしがみついていたのを福富にはがされてから抱き上げられたからか。なまえという名前の幼稚園児はにこにこと元気よく挨拶をした。
鉄仮面福富の鉄仮面っぷりがより浮き彫りになるくらいに、眩しい笑顔だった。

冷えるからと移動した部室。福富は叔母に連絡をいれにいったため、なまえは少しそわそわしていた。知らないところに一人、というのはやはり不安らしい。人見知りはしない性格だと福富から聞いていたため、新開は椅子に座っているなまえの目線にあわせるように屈んだ。

「一人できたのか?」
「うん!あのね、ようちえんのバスおりるとこね、ちかくにハコネガクエンのバスとおるとこあるからね、それにのってきた!うんてんしゅさんに、きいたよ!」
「そっか。おめさん、すごいなぁ」

5歳にしてはしっかりしている。そう思ったから素直にそういえば、誇らしげに笑うなまえ。
荒北はそんな二人を離れたところから見ている。子どもは苦手らしい。

「なまえちゃん、ここにくることはお母さんやお父さんは知っているのか?」
「うん!きのう、じゅいちちゃんのおいわいするっていったよ」

これに関しては微妙にずれている。さすがの山神も苦笑する。

「…それはここに来るということは伝わってないのではないか?」
「多分なぁ。普通ならこんなとこまで子ども一人でバスでこさせねぇな。ま、寿一に聞きゃわかる」

ぽんぽんとなまえの頭を撫でながら、新開は腰をあげる。するとちょうどよく福富が戻ってきた。ぱあ!と、なまえは顔を輝かせる。
本当に福富が大好きらしい。

「じゅいちちゃん!」
「…なまえ、叔母さんが心配し」
「あのね、これ!きょうはじゅいちちゃんのおたんじょーびだからね、なまえもってきた!」

幼稚園の鞄から、取り出されたもの。
それは手作りの、画用紙に折り紙が張られた金メダルだった。

「じゅいちちゃんはいちばんつよくてはやいから、きんメダル!はいっ、かけたげるー」

かがんで?と無邪気にお願いされ、それを無碍にするわけにはいかず、福富は椅子に座ってるなまえに合わせるように膝をつく。そんな福富ににこにこ笑いながら、手作りのメダルをかけるなまえ。

「じゅいちちゃん、おめでとう。だいすきっ」

屈んでる今の内にとばかりに、福富の額にちゅっとキスをするなまえ。そして「きゃー!」と恥ずかしがりながらも、嬉しそうに福富の首に腕を回して抱きつく。
福富は目を見開いたあと、いつものようにその小さな体を抱き上げてから腰を上げる。正月に会ったときもこうして抱き上げたなと、つい2ヶ月前のことを思い出した。

「…ありがとう、なまえ」

抱きしめながら頭を撫でてやれば、なまえのはにかみ混じりの笑い声が福富の耳をくすぐった。


「ヒュー。隅におけねぇなぁ、寿一」
「大胆だな、なまえちゃん!」
「えへへー」
「ただのマセガキだろォ。つーか、福ちゃん。こいつの親、なんだってェ?」
「…じゅいちちゃん、あのひとことばわるい」

幼稚園児に言葉遣いのことを言われ、荒北は舌打ちする。福富はそんな彼を咎めたあと、さきほど電話した叔母…なまえの母親の口調や言葉を思い出す。

「やはり、ここに来ていると知らなかったらしい。幼稚園バスをおりたらいつも帰ってくるのに、帰ってこずにいなくなったから探していたと言っていた」
「やっぱりナァ。おいチビ、怒られるぞ、オメェ」

にやにやと意地悪く笑う荒北。なまえは不思議そうに目を瞬かせ、荒北から福富に目を向ける。

「?なんで?ちゃんときのう、おいわいするっていったもん」
「…いや、覚悟しておくんだ、なまえ」
「へーき!だって、じゅいちちゃんのおいわいのためだもん!ママもおこんない!」

にぱーと無邪気に笑ったなまえはこの20分後、迎えにきた母親にしこたま怒られ「寿一くんと寿一くんのお友達に迷惑をかけたんだから謝りなさい」「うわぁああああんっ!ごめ、ごめんなさいいい…!ひぐっ、うっ…」と泣きじゃくることになるなど、全く考えてもいなかった。

ちなみに手作りの金メダルは、福富の部屋に飾られていたという。




20140303
福富ハピバ!!
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