▼異文化交流
※はちみつに漬けて、の続編
イースターという行事は日本に馴染みがない。何が楽しいのかも巻島には分からない。元々は、キリストの復活がどうとか。たしかそういったものだったと思う。アイス会社や製菓会社はそれにかこつけ、うさぎやら卵やらのお菓子などを出していた…ような気がする、レベルである。
「ユースケ、卵塗るの手伝って」
しかしこの近所に暮らしている英国少女からすれば、毎年の恒例行事らしい。年によって日にが変わる、不定期な祝祭日。もっと詳しく調べれば多分分かるのだろうが、あいにく巻島はキリスト教徒ではない。ただ、この少女が卵と絵の具を持ってきてイースターに参加しようというのだから、異文化交流もかねてやるには悪くない話である。
「卵塗るだけでいいのか?」
「スコットランドは真っ赤に塗るの。フィンランドとかはすごくカラフルだから、スコットランドも最近そうしてるのよ。かわいいもの」
汚れてもいい服で着たのか。べたべたと気兼ねなく卵をピンク色に塗っていくなまえ。
「かわいたら白いうさぎ描くの」
(塗り方雑ッショ…)
どうやらなまえは不器用らしい。
巻島も筆と卵を手に、何を描こうかと思 案する。思案しつつ、この卵をなんに使うのかなまえに尋ねた。
「これ、どうするものなんだ?」
「夕方に小さいいとこがくるからね、かくして探す遊びするの。毎年してるわ」
今度は真っ黄色に塗って、乾かすためにそっと置くなまえ。巻島も、筆に水色の絵の具をつけ、卵に塗る。これに緑色のストライプをいれようなどと考えていると、こんどはなまえが尋ねてきた。
「日本は、復活日にはなにをするの?」
「特になんもねーッショ。仏教とかそっち系だからなぁ」
いや、もしかしたら似たようなものがあるかもしれないが、巻島はあまり詳しくなかった。だから濁したが、なまえは納得したのか深く追及してこなかった。
「じゃあ、ブッキョーではどんな祭日があるの?」
「えっ?…あー、お盆、とか?」
「オボン?」
「死んだご先祖様が帰ってくる期間ショ。で、ご先祖様は、ナスとかの乗り物で帰る」
「?!」
なまえはカルチャーショックを受けていた。確かに、言葉通りに想像したら訳の分からない絵面である。
「に、忍者の国、すごい…」
「……」
もっとよく知っていればうまく説明できたかもなぁとは思いつつ、巻島にはそれ以上どう説明したらいいか分からなかった。
柄まで描き終える作業は、思いのほか早く終わった。なまえと巻島、どちらが描いたかはっきり分かる。不器用にも絵を描いたりしてるのがなまえ作で、色と柄の組み合わせが奇抜なのが巻島作だ。両方をいれた籠を見て、なまえは満足げたった。
「ありがとう、ユースケ」
「いいッショ。いい気分転換になったショ」
二人とも手が絵の具で汚れている。もう乾ききってるため、家具や服につく心配はない。が、さすがになまえの顔についた絵の具だけは拭いてやった。
「これ、お礼。一番かわいくできたの、ユースケにあげる」
真っ赤に塗られ、ハートが描かれたイースターエッグ。なまえはそれを巻島に渡し、いつものようにハグとキスをする。巻島ももう慣れたもので、小さな体を抱きしめて頬にリップノイズを立ててやる。
「サンキューッショ」
巻島にはイースターというものがどういうものか、いまだによく分からない。しかし、なまえと経験したこの初めてのイースターは胸が温かくなり、悪くないなという印象を巻島に抱かせた。
20140420
イースターに関して色々間違ってたらすみません