▼あわくあまい

※甘い躊躇いと星屑セレモニーの続編


少し遠くにある自転車屋さんに、わたしが通うようになったのは通司さんに会うためだった。口では「はじめての自転車だから」とか言って。

「あとあの、パンクがやっぱり怖かったから…」
「ああ、あの初めて会ったときの。すごい泣いてたもんなぁ、なまえちゃん」
「わ、わすれて! 」

通司さんはにやにやしながら、わたしの自転車の点検をしてくれた。わたしは店内の自転車を見つつ、通司さんに話しかける。

「通司さんも、自転車に乗ってたんですよね?」
「――ああ、昔な。故障したからもう乗れないんだ」
「?自転車、壊れちゃったんですか?」
「違う違う」

通司さんは困ったように笑いながら、自分の膝を軽く叩いた。…このときにわたしは、故障したという表現が持つ意味を知った。

「…ひざ?」
「そう。もう乗れねーからなぁ」
「…ごめんなさい」
「気にしてないし、なまえちゃんが気にすることじゃないさ」

はい、終わり。
わたしの自転車の点検が、終わる。通司さんを見れば、手を拭いた通司さんから頭を撫でられた。ぽんぽんと優しく撫でてくれるのが、好き。お父さんのとは、また違うから。

「自転車に大事に乗ってるね。状態はすごくいいよ」
「ほ、ほんとうですか?」

ほめられた、うれしい。
大好きな自転車のサドルを撫でてたら、通司さんはスルメを食べ始めた。通司さんはいつも、スルメを咥えて食べている。食べたことないけど、通司さんがいつも食べているから気になって仕方なかった。

「…通司さん、スルメ、おいしい?」
「ん?なまえちゃん、好きなのか?」
「ううん、食べたことないから」
「食べてみるか?」

袋からスルメを出して、わたしにくれた通司さん。ちょっと匂いをかいでみたら、独特なにおいがして、ちょっとためらった。けど、せっかく通司さんがくれた通司さんがいつも食べてるものだからと思って、食べる。

「…ぅ」
「ははっ、おいしくなかったかな?」

出す?って聞かれて、首を横に振る。独特の味となんかあの、食べた感じが、へんで…かんでもかんでもなかなかきれなくて、両手で口をおさえてたくさんかんで…ようやく飲み込めた。通司さんはそんなわたしに笑いつつ、水をくれた。ペットボトルを受け取って、飲んでから一息をついた。
通司さんはそんなわたしに、笑いながら聞いてきた。

「どうだった?」
「…お、おとなの、味でした」

おいしくなかったとは言えなくて。一生懸命ひねりだした感想。
通司さんが吹き出したから、なんだか悔しくなった。

「お、大きくなったらスルメのおいしさ分かるようになります!」
「くっ…はは、うん。そう、だなぁ。なまえちゃんも、大人になったらわかるようになるな」
「…っ!」

大人になったら見返してやる!
子どもながらにそう思ったし、大きくなったら少しでも通司さんから子ども扱いされなくなるのかなとか、大人になった自分に期待してみた。




20140416
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