▼2周目疑惑

「あ、やっくんだ」

長期休みになると、閉寮する期間がある。メンテナンスだとかなんだとかで。そうなると寮生活をしている生徒は、帰省せざるをえなくなる。
そして荒北も実家に帰省したのだが、帰省しても練習しなくていいというわけではない。どころかトレーニングルームなどの環境がないからこそ、工夫して練習をしなければならない。
今日も練習に最適なコースを一人で走ってきて、シャワーを浴びて何か食べようとしたら、いつの間にか居間に年の離れた従姉妹のなまえがいたのだ。いつもなら妹が相手をしているその従姉妹が、今は自分と二人。お世辞にも子どもの相手が得意とはいえない荒北だが、この従姉妹は荒北に対して全く怖がったりしないため、扱い易いとは思っていた。

「チビ、一人か?」
「ママとおばちゃん、お買い物いったよ。やっくん、ごはんチンしてたべてっておばちゃんが」

ちゃんと伝言も伝えている。やはり扱い易いが、

「オメェかわいげねーヨナ、本当」

しっかりしすぎていて、たまに本当にそう思う。スーパーなどでたまに見かける子どもの駄々。この従姉妹のを、荒北は見たことがない。2、3歳の頃のを除いて、だが。なまえは、荒北の母親が出したと思われるプリンを食べる手を止めて答える。

「やっくんのがかわいくないよ。目、こーんなだもん」

両手で自分の目をつり上げてみせるなまえ。レンジに用意されてた料理をいれ、ボタンを押してから荒北は言う。

「見た目の話じゃねーヨ」
「やっくんよりせーかくいいよ?」
「どこがだ」

割と打算的なのを知っている。どうやったらこう育つんだと疑問に思ったことはある。しかし、なまえの母親…つまり叔母は、普通なのだ。打算的な匂いは一切しない。なのにこんな娘になるのだから、何がこいつに影響してんだと荒北は不思議だった。なまえは再びプリンを食べだす。

「そういえばやっくん、あの変な髪型やめたんだね」

変な髪型…リーゼントである。荒北は渋い顔になる。

「ッセ!」
「やっくん、あのときこわかったし、なんか苦しそうだったね」

なんてことのないことのように呟かれたが、核心に近いことをこの子どもは口にしたのだ。強かとはいえ、まだ10歳にもなってない、プリン一つでお留守番と伝言を引き受けるような子どものくせに。

「…本当、オメェはかわいくネェ、なまえ」

訂正しておく。
やはり荒北は子どもが苦手だ。そしてこの従姉妹が特に苦手だと、思うようになった。

「やっくんほどじゃないってば」

もう説得力などない。言い返すこともせず、荒北は温め終わった料理をテーブルに運ぶ。残り少なくなってきたプリンを大事そうに食べているなまえ。そういうところは子どもらしいくせに、言動だとかそういったものがたまに大人びてるというか。打算的で、子どもにしては観察力があって。

「…オメェ、実は人生2周目とかァ?」
「やっくんなにいってんの?」
「…なんでもネェ。忘れろ」

しかし、この従姉妹からいきなり「実は、人間として生まれてきたの二度目なの」とか言われても驚きはしないなと思いながら、荒北はご飯をかっこんだ。
やっぱりガキはどんなもんでも苦手だと、再び思ったのは言うまでもない。




20140408
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