▼はじめてのジェラ

お兄ちゃんはこーこーせいになってから、前よりもじてんしゃばっかりになりました。そしてどんどんムキムキになって、ときどき「あんでぃ」とかいってます。
おやすみになってお家にかえってきても、れんしゅーとかトレーニングとかいって、まえみたいにあまりあそんでくれません。ふだんお兄ちゃんはりょう生活をしていて、おうちにいないんです。だから夏やすみとかおやすみのときしかおうちにかえってこなくて、わたしはとってもお話したいこととかあるのに、お兄ちゃんはじてんしゃばっかりです。それか、あんでぃとかふらんくのことばっかりです。

お兄ちゃんをとったじてんしゃが、だいきらいです。

それでもじてんしゃがとってもたかくて、お兄ちゃんがたいせつにしてることはわかってるから。だからどうしたらいいかわからないから、とりあえずお兄ちゃんにふへーふまんをつたえてみようと思いました。

それにはなにが一番いいのかかんがえたけっか、お兄ちゃんに、ちょっとつめたくしてみることにしました。
お兄ちゃんが「ただいま」ってじてんしゃのれんしゅーおわってかえってきても、「おかえり」をわざとてきとーに言ったり。「いってきます」、「いってらっしゃい」も同じ。おやすみのときはお兄ちゃんとねていたのもやめて、ひとりでねました。…それはちょっとさみしかったけど、がまんしました。

なのに、まだお兄ちゃんはじてんしゃばっかりです。


「…もう、お兄ちゃんなんかしらない」

練習を終えて帰ってきた泉田に、唇を尖らせて涙をためている妹のなまえが言い放った。自分と同じように睫毛が長く、弓なりになっている。こぼれ落ちそうな涙に泉田が呆気にとられていると、なまえは背を向けて奥へと駆けだしていた。

「あっ…ちょっと、なまえ!」

慌てて靴を脱ぎ、追いかける泉田。
最近妹がつれないと思っていたら、いきなりこの仕打ちである。混乱していた。
部屋か?と思っていると、トイレの前になまえの小さなスリッパがあった。いつものくせで脱ぎ、トイレにこもったのだろう。しかし、トイレは最適だ。鍵があるから、即座にこもれる。ここまで頭の回転が早くなったのかと、こんな形で泉田は妹の成長を実感した。
泉田はドアノブを回さず、優しくノックしてから中の妹に声をかける。

「なまえ、お兄ちゃんが何かしちゃったのかな?」

すぐに返事はなかった。ただ、鼻をすする音が返ってきて、それをイエスと捉えた泉田。そのままの声音で続ける。

「お兄ちゃんがなまえに何をしたか教えてもらいたいんだ、なまえ」

お兄ちゃん、お兄ちゃん。あとをついてきてまわり、大好きだと言ってくれた妹に避けられるのが、泉田もつらかった。たとえシスコンと罵られようが、たった一人のかわいい妹だ。そんな妹を泣かせたりしたのは、兄としてやってはいけないことをした気分になる。
しばらく中でぐずっていたなまえは、しゃっくりまじりに口を開いた。

「…お、お兄ちゃんが…」
「うん」
「じてんしゃ、ばっかり…ぐすっ…じてんしゃ、きらい…!」

自転車を嫌いと言われて、泉田もショックを受けた。しかしその前の、「自転車ばっかり」という言葉を聞き、その真意を理解する。

「なまえ、ごめん。お兄ちゃんと遊びたかったんだね?」

よくよく考えれば、確かに今回自分は帰省しても自転車やトレーニングばかりしていたと思う。その合間に課題を終わらせていた。両親は自分が部活に専念するのに理解を示してくれているが、なまえはまだそれができていなかった。

「…ごめん、なまえ。お兄ちゃんが、寂しい思いさせちゃったね」
「……」
「明日はお休みするよ。何かしようか、なまえ」
「…うん」

弱々しい声の後、鍵があく音がした。ゆっくりとドアノブが動いて、そろそろと涙目のなまえが顔を覗かせる。長い睫毛は、濡れている。安心させるように泉田が表情を和らげれば、なまえは泉田の胸に飛び込んだ。
10数キロしかない体を、しっかりとアンディとフランクが抱き留める。

「お兄ちゃん、ごめんなさい…!だいすき…っ」

鼻をすすりながら言う妹の頭を、泉田はやさしく撫でた。




20140401
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