▼つづいていくエール

>>エネルギーチャージとリンク



手嶋、青八木が田所に色々と面倒を見てもらうようになったばかりの頃だった。田所の小さな従姉妹、なまえと知り合ったのは。

自主練終わりに田所が自宅に二人を連れて行き、パンを振る舞った。自転車乗りは、エネルギー消費量が多い。乗る前、乗った後なら食べて補給しなければ消化器系がやられたり、倒れたりすることもある。それに普段から気をつけなければならないのだ。
だから田所は田所パン屋のパンを二人に振る舞っていた。とき、遊びから帰ってきたなまえと手嶋と青八木は知り合った。

「…じんちゃん、」

玄関から入ってきて二人に気づいたなまえは、田所の大きな背中に隠れる。やや人見知りの気があるため、手嶋と青八木が気になっても恥ずかしくて挨拶ができなかった。田所はそんななまえを無理に自分の後ろから出させるでもなく、二人になまえを紹介した。

「おう、手嶋、青八木。こいつはオレの従姉妹のなまえだ。ほれ、なまえ。はじめましてしろ」
「は…はじめまして…」

もぞもぞとしつつ、田所の後ろから言うなまえ。いとことはいえ大柄で豪快な田所と、この小さくて人見知りしてる女の子に血のつながりがあるとは、にわかには信じがたかった。

そのあと手嶋と青八木は田所からアドバイスを受けていたが、なまえはずっと田所の後ろから手嶋と青八木を見ていた。ちらちらと視線を送りつつ、おやつのあんパンを食べているなまえ。二人に興味はあるのだろう。この頃になるとなまえの様子を観察する余裕が手嶋にはあったため、 田所がトイレへと向かったときになまえに声をかけた。

「なまえちゃんは田所さんが大好きなんだね」

田所がいなくなり、そわそわ落ち着きなくなったなまえに、手嶋はできうるだけ優しく声をかけた。話しかけられると思ってなかったなまえは、もぞっとしつつも落ち着いて座ろうと努めていた。

「…じんちゃん、は、おっきくてやさしいから、」
「そう…だな」

同意を示したのは青八木だった。なまえは言葉数少ない青八木が同意すると思ってなかったのか目を瞬かせていたが、ほんの少しだけ、表情を和らげた。

「ん。…だから、だいすき。…ふたり、も…?」

おずおずと聞いてきたなまえに二人が頷けば、嬉しそうに笑った。
田所がトイレから戻ってきてもなまえが終始嬉しそうだったため田所は不思議がったが、手嶋と青八木は田所となまえを見て心密かに和んでいた。


そして、…田所が引退し、手嶋が主将、青八木が副将になった現在、

「あっ。純太ちゃん、一ちゃん、おはよー」

相変わらず仕事が忙しく、両親がいないことの多いなまえは田所家で過ごしていて、小学生になっていた。出会った頃より人見知りは薄れ、田所パンのお手伝いをしている。清潔感あふれるエプロンを着ていて、手嶋と青八木を出迎えた。

「おはよう、なまえちゃん」
「…おは、よう」
「早いねー。れんしゅー?」

もう二人が買うパンを覚えたなまえは、焼きたてだよと二人のパンをそれぞれ袋に詰める。普通ならお会計のときはおば…つまり田所の母親を呼ぶのだが、手嶋と青八木はいつもぴったり払うから、この二人のときはなまえが代金を受け取るだけでよかった。

「そうだ。オレたちは王者になったからな。それを死守するんだ」
「一番だったもんね!」

こくり、と青八木がなまえの言葉に頷く。そして、今度は自分たちが選手として王者の地位を守り、一番になるのだと思った。
その決意のすべてを知らなくても、仲良くなった二人の力になりたい、と、子どもながらになまえは思っていた。だが具体的になにかできるわけではないから、二人にとびきりの笑顔でこう言うと決めた。

「はいっ、こっちは純太ちゃんでこっちは一ちゃんの。がんばってね!」

袋を青八木、手嶋に渡し、応援してる!と拳を作るなまえ。
そんな姿を見ていると、以前田所が少し照れたように、なまえに応援されると気力がわくと言っていたのを、青八木と手嶋は思い出すのだ。

「ああ!いってくる!」
「パン…ありがとう」

なまえに手を振り、それぞれ愛車に跨がる青八木と手嶋。
なるほど、確かにペダルが軽く感じる…などと思いながら、二人は自主練するためのコースへと風を切るのだった。




20140322
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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