ぱしゃ、ぱしゃん。
どきっ、どくん。

お湯が跳ねる度、私の心臓も跳ねる。
まだそんなに長くお湯に浸かっていないはずのに、もうずっとこうしているかのような気になってくる。

「…気持ちいいね、詩乃ちゃん?」
隣、…本当にすぐ隣から亮太くんの声が聞こえてきて、私は俯いて、『…うん…』とだけ答えた。
お湯の熱さを、ひんやりとした冬の外気が奪っていく。

今日は、Waveとレギュラー出演をしているバラエティー番組のロケで、温泉地へとやってきていた。
久しぶりの、泊まり掛けのロケだ。

撮影を終えた私たちは、翌日の撮影に向けて、今夜はここで一泊することになっている。
撮影後の宿泊部屋は一人一部屋用意されているのだが、私は彼氏である亮太くんに訪ねられていた。
そして亮太くんにせがまれ、一緒に露天風呂に入ることになり、冒頭に至る。

「…ねえ、詩乃ちゃん…一緒に露天風呂入ろうよ?」
『え…でも…』
「いいじゃん、別に〜。露天風呂って言っても、部屋についてるやつだし、誰にも見られる心配はないよ?…俺以外には、さ?」

亮太くんはニヤリと笑って私を見つめた。
『でも、恥ずかしいもん……』
私がいっぱいいっぱいになりながらそう言うと、亮太くんは笑みを浮かべた。
「俺と一緒に入りたくないなら…今から、もっと恥ずかしい事…しちゃおっかな〜」

天使の笑みで悪魔の言葉を発する亮太くんには敵わなくて、私はこうして亮太くんと、部屋についている露天風呂に入っている。
そのやりとりを思い出しただけでも顔が熱くなっていく。

余計な事を考えてしまったせいで、もともと温かくなっていた体は更に熱くなり、私は少し熱を冷まそうとお湯から肩や腕を出した。
その時。

「…あ」
『わ…、ごめんね』

ふいに、お湯から出して外気へと晒した私の腕が亮太くんの体にぶつかってしまった。
ぱしゃん、とお湯が波打つ。
浴槽はひとりで入るには充分な広さでも、ふたりで入るには少し狭くて。

恥ずかしさにいたたまれなくなって、少し空いたスペースを見つけ、そちらに移動しようとした。
…しかし。

『きゃっ…』
「つーかまーえた♪」

亮太くんに手首を掴まれてしまい、離れるどころかむしろ引き寄せられてしまった。
いつもと変わらない、いたずらっ子のような笑い声に、その余裕な態度に、少し悔しいけど──やっぱりドキドキさせられる。



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