『う…ん…』

目が覚めると、私は知らない部屋にいた。


ここ、どこ…?

私は、見慣れないカーテンのかかっている、見慣れない部屋の、見慣れないベッドの上に寝かされていた。


とりあえず状況を把握しようと、持っていたはずの携帯を探した。
しかし、ポケットの中にはなくて一気に不安に駆られる。


…そもそも私、なんでこんな知らない場所にいるんだろう。

答えは、分からない。

脳がそう判断した途端、心臓が急に早く動き始める。
危険だと、体中の細胞が煩く警鐘を鳴らす。

嫌な予感がして、私はベッドから勢いよく体を起こして立ち上がった。



――その瞬間。

『…っ!?』

ぐにゃり、と見えていたものが全て歪んで、頭が割れるように痛くて──気付けば床に座り込んでいた。
思わず目を瞑り、頭を抑えた。



「…あれ、起きてたんだ?」


すると聞き慣れた声が聞こえて、私は目を開けた。

いつの間にやってきたのか。
しゃがみこんで、私と視線の高さを合わせるのは、亮太くんだった。


『亮太、くん…』

「ん?」
『ねえ…っ、ここ、どこなの?仕事は!?』


取り乱して、次々と質問をする私に、亮太くんはため息をついた。



「そんな一度に言われても…とりあえず、ここは俺の家」

『どうして…っ』
私の言葉を遮るように、亮太くんはにこっと暗い笑みを浮かべた。
「それから、詩乃ちゃんはもう仕事の事も、一磨の事も、何も考えなくていいから…ね」

『え……?』


彼の突然の言葉に、頭が真っ白になる。


「──ここからは一歩も出られないよ。もう二度と、一磨には会えない。もちろん、家族やマネージャーの山田さんにもね」

『嘘…だよ、ね?』


声が震える。体が震える。うまく話せない。

お願いだから、いつもみたいに冗談だって言ってよ……

そう願うのに、目の前にいる彼の暗い笑みは消えない。
警鐘は、鳴り止まない。

──危険危険危険

逃げなければいけないのに……


「嘘なんて言ったって、しょうがないでしょ。君は、もう俺のものになったんだからさ」


それなのに。
……動けない。



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