私は蛯原さんに手を引かれ、彼の部屋へやって来た。 初めて入るその部屋は彼らしくてシンプルだけど、家具の配置などにやはりセンスを感じる。 つい立ち止まって部屋を見回していると、蛯原さんが私の手を強く引いた。
『…っ』
「あんまり見るな…。それより、こっちだ」
蛯原さんについていくと、彼はひとつの部屋の前で立ち止まり、扉を開けた。 それが何の部屋なのか…というのは安易に予想できて。
私は手を引かれるまま、ベッドに座らされた。
「長江…いいか…?」
彼の熱い視線に、黙って頷くことしかできない。 嬉しそうに笑みを浮かべ、蛯原さんが覆い被さってきた。
「…ずっと、こうしたいと思っていた」 『あ……』
唇を合わせ、舌を絡めとられながら私の服は脱がされていく。 もちろん、キスさえ結婚してから一度もしたことがなかったのだから、これから訪れるであろうキスのその先の行為なんて言うまでもなくて。
「綺麗だ……」
『っ、あ…っ』
気付けば自分の衣服は取り去られていて。 恥ずかしい、と口にするより早く彼の骨張った指に胸を弄られて、甘ったるい声がもれる。
『…あ…』 声を抑える私に、"声を抑えるな"と言わんばかりに蛯原さんは刺激を与えてくる。
『あぁ…っ』 彼から与えられる刺激に耐えかねた頃――
「アネモネの花言葉…知ってるか…」 ぽつりと、蛯原さんが問う。
『"きっと大丈夫"…ですか?』 白いアネモネを思い浮かべ答えると、彼の優しい笑みと出会う。
「アネモネには…出典によりけりで、花言葉にはいろいろなものがあるんだが…」
『……』
「俺はあの花に…"淡い期待"を込めて、君に贈っていた」
そう言うと彼は、そっと私に口づけた。
「でも、今は…あの赤い花を、また君に贈りたい気分だ」 『…どういう意味で、ですか?』
私が尋ねると、優しい王子様は今までで見た中で一番幸せそうに笑った。 赤いアネモネが、ふと脳裏に浮かぶ。
「…柚月、君を"愛している"」
『…桔平さん…ありがとう…』
そう言うと、慈しむような甘い仕草とはうって変わって。 彼の熱いものが、ぐっと侵入してくる。
「くっ……」 『あ、やっ…あ…ッ…』
激しさにただ身を委ねて、声を上げる。 まるで初めての時のように、甘酸っぱい幸せさをいい歳ながらに感じて。 私はそっと、瞳を閉じた。
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