「ご予約の藤崎様、ですね?」


そう言って案内されたレストランは、
義人くんが言っていた通り、
こぢんまりしているけど
凄くオシャレで、
でも落ち着いた雰囲気があって。



通された窓際の席からは
白い石畳の中庭が見えて。
高い天井まで続く
大きな窓越しに
夜空を見上げれば、
蒼い月。



それだけでも、
私をドキドキさせるには充分な程、
ロマンチックなシチュエーションなのに。



目の前には、
いつもより少し大人っぽい、義人くん。





私は恥ずかしさを悟られないよう、
テーブルに置かれていたメニューを広げ、
それを見るフリして、
顔を隠した。





やがて、シャンパンや
美味しそうな料理が運ばれて来て。


「義人くん、お誕生日、
おめでとう…!」
 
 
カチン、と綺麗な音を立てて、
乾杯をした。
 
 
 
…あれ?そういえば、
義人くん、車なのに、
お酒飲んで大丈夫なのかな?
 
まあ、義人くんの事だから、
きちんと代行か何か頼むのかな…、
なんて考えていた、その時。





「…ねぇ、あれって、
Waveの義人じゃない?」


「嘘っ?マジで〜?
じゃあ、一緒にいるのって、流°?」



若い女性の話し声が、
耳に飛び込んで来た。



静かだったところへ、
かなり、大きな声だったせいか、
途端にざわつきだす店内。





「…まずいな」





考えてみれば、
今日は土曜日。

人も、いつもより多いはず。

久しぶりに義人くんに会える嬉しさで、
すっかり忘れてた。



いくら、私と義人くんが
恋人だと知られていても、
このまま騒ぎになったら、
お店に迷惑が掛かってしまう。



どうしよう―――――



そう思っていると、
義人くんが素早く私の手を掴み、

「…流°、出よう」

そう言って席を立つと、
そのまま店を出た。
 
 



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