ある日の、大人気アイドルグループ、Waveの楽屋にて。
歌番組の収録を控えたWaveは、収録の時間まで楽屋でくつろいでいた。

義人はいつものように、静かに文庫本を読んでいる。
京介は、携帯で何やらメールをしている様子。
翔は、差し入れのチョコを頬張っている。
一磨は、ミュージカルの台本を熱心に読んでいた。
携帯を見つめていた亮太がふいに顔を上げ、そして口を開いた。

「もうすぐ詩乃ちゃんの誕生日だね〜」
「…!」
その、どこかのんびりとした亮太の口調に全員が顔を上げた。
…ふだん、本ばかり読んでいてあまり話にも加わらない義人でさえ、だ。

詩乃……歌手としてだけでなく、ドラマ、ミュージカルなど幅広く活躍する彼女はWaveとは仲も良く、仕事で一緒になる機会も多い。
詩乃は、国民のアイドルでもあるWaveにとっても、自分がアイドル的存在である事に気付いていない。


珍しく翔と京介の喧嘩もなく静かだったWaveの楽屋の空気が、亮太の発した一言によって一瞬にして変わった。

チョコに手を伸ばしていた翔は、手を引っ込めた。
ページを捲ろうとする一磨も義人も思わず手を止め、京介も文字を打っていた指先を止めて亮太を見た。

「そうだよな…もう近いもんな。っていうか…何で亮太が詩乃ちゃんの誕生日知ってるんだよ?」
詩乃、という名前に真っ先に反応したのは翔だ。
それを見て、亮太は意地悪そうな笑みを見せた。

「何?俺が詩乃ちゃんの誕生日を知ってたら問題でもあるわけ?」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「じゃあ、どういう問題?」
「う……」

言葉を詰まらせた翔を見て、更に追い討ちをかける亮太。
「俺、詩乃ちゃんとはバラエティーで仲良くなったからさ、色々知ってんだよね〜?イロイロ、とさ」
「…色々って何だよ!」

「…さあ、ね?」
どこか意味深な笑顔を浮かべる亮太に、突っかかる翔。

止まらない喧嘩を止めるのは、いつもはリーダーである一磨だ。
「…プレゼント、どうしよっかな…」
「…え?」

しかし、今のやり取りを収めたのは以外にも京介だった。

…と言うよりも、珍しく言い合いに加わらなかった京介がポツリと言ったその言葉に、翔たちも口を噤んでしまったのだった。

「1月30日、か…」
一瞬の静寂を破ったのは義人の声だった。

「あれ、義人も…詩乃ちゃんの誕生日知ってるのか?」
その声に反応し、一磨が声をかける。
義人は小さく頷き、ページを捲った。

「ドラマで共演してるから…そういう話もしただけだ」
そんな義人に対し、他のメンバーからは「ああ」と納得の声が上がる。

そんな声の中、そっと呟いたのは京介だった。
「こうも敵が多いと……なあ」
まあ負けるつもりはないけど、と付け加えて呟いた後、京介は一磨に視線を送った。



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