あたしね、蓮二が好きだよ。
そう蓮二の背中に囁いたら、本から顔を上げた蓮二があたしを振り返って、
「俺も好きだ。」
そう言ってあたしに手を伸ばして、前髪に指を滑らすみたいに頬を大きく撫でた。
「でも、蓮二は彼女が好きだよね。」
疑問じゃなく確認。
それに蓮二は微笑んで、
「お前もそうだろう。」
自分が最愛の相手ではないと線を引く。
「蓮二をね、」
あたしは下を向いて、
「どう思ってるか聞かれたの。」
「ほおう。」
誰に、なんて言わなくても、分かる蓮二が好き。
誰が、なんて聞かない優しさの蓮二が好き。
「蓮二はあたしがあたしである為に、いなくてはならない人。愛した貴方と出会う前に出会わなくてはならない人。」
「そう答えたのか?」
困ったように笑った蓮二も好きだな。
「うん。だってね、あたしという存在を見つけて、作ってくれた人だから。」
神さまなんて大それたことは言わない。
でもね。
蓮二はテニスを教えてくれただけじゃない。
全く奮わない成績を人並みにまでなるように勉強の仕方のコツを教えてくれたのも。
身に付けておきたい常識やマナーを教えてくれたのも。
人付き合いのちょっとしたコツとか。
いろんな抜け道的なこととか。
ううん、もっと大事なことがある。
誰かを深く、大切に想うことを教えてくれた人。
それは愛するあの人にもとって変われない、特別なポジション。
「それも言ったのか?」
「言わないよ。」
あたしは蓮二の肩に両手を揃えて、その上に頭を置いて、
「それは蓮二だけ知っていればいいの。」
「随分と我が儘だな。」
そう言ってあたしの髪をすいてくれる指先が好き。
「でも嬉しいでしょ。」
あたしも知ってるよ。
「あぁ。本当にお前には敵わない。」
旋毛にキスするのって、愛しの彼女にもしないことを。
「蓮二の代わりはいないんだよ。」
「俺もお前の代わりはいない。」
あたしの体を起こさせて、優しく微笑んでくれる蓮二にいつまでも甘えていたくなる。
蓮二もそんなあたしを甘やかしてくれる。
「愛に順番なんかないと思ってた。」
愛は一つだけ。
愛する人は一人だけ。
蓮二に会うまでそう思っていた。
「愛は究極の依怙贔屓だ。優先順位があって当然だ。」
蓮二は目に掛かりそうなあたしの前髪を払ってくれて、
「お前の中で俺は何番目だ?」
そう聞いてくる蓮二は本当は知ってるくせに。
わざわざ聞いてくるとこ、嫌いじゃないよ。
「二番目。何があっても絶対に変わらない位置にいるの。」
「そうか。それを聞いて俺も納得した。」
「蓮二らしくないね。」
他人の話に左右されるタイプじゃないのに。
「俺も二番目にお前を愛している事に迷っていた。だが、その言葉を聞いて己の気持ちに納得が行った。」
ふわりと蓮二の手があたしの頬にあてられた。
「二番目に愛している、それが俺とお前の正しい距離だ。」
ふと寒さが緩んで春風が優しく吹くような微笑み、あたしだけのものだもの。
「うん。これがちょうど良い関係だね。」
俯きがちにはにかむあたしも蓮二しか知らない。
「ずっと二番目にしてね。一番なんかにしたらやだよ?」
意外と一番なんて脆い立ち位置だもの。
「聞くまでも無い。」
あたしのことに自信を持って言い切る蓮二が好きなの。
にばんめに愛した人が蓮二でよかったと思う。