「なぁ、俺っておまえのなに?」


最近の仁王は面倒だ。突然こうして自分の存在価値について問い掛けてくる。そ
んなことに今更疑問を感じようが、そこには答えなんてないのに。あるとすれば
虚しい現実だけだ。だから私は、決してそれを口にはしない。センチメンタルな
気分になら、1人で勝手に浸っておけばいい。


「セフレ?身体だけの関係?」
「どうでもいいじゃん、そんなの」


無視をして背中を向ければ、背後の仁王は唸るのをやめた。


「でも…もう身代わりってわけじゃないんじゃろ?幸村の」


不意に、仁王の口から零れ落ちた名前に反応して、思わず振り向き様に睨んだ。


「…仁王、その話はしないって約束でしょ」
「わかっとるよ」


相当酷い顔をしていたのか、仁王の手が優しく宥めるように私の髪を撫でた。




仁王とのはじまりは、幸村くんがきっかけだった。




私は入学した当初から、ずっと幸村くんに憧れていた。その想いが叶うなんて図
々しいことは到底考えてなんていなかったけど、2年の時、彼と同じクラスにな
って思いの外距離を縮めることが出来た。


でも、一度近付いてしまったからこそ離れ難い。2年の秋に幸村くんに彼女が出
来たと聞いた時、私はどうしようもない喪失感に苛まれた。なにも考えられなく
て、道さえ真っ直ぐには歩けなくて。ただただ訪れる絶望と嫉妬心に胸が灼け尽
くされそうになった。


そんな時だ。
同じクラスの仁王雅治に目を付けられたのは。


同じテニス部とはいえ、幸村くんと違って女の噂の絶えない仁王を当時の私は苦
手としていて、それまでほとんど関わったことなんて無かったのだけれど。その
時は、どういうわけか差し伸べられたその手を取ってしまった。


あれから、もうすぐ1年が経つ。




人間の、まして思春期の頃の想いなんて儚くて、今となってはあれほど哀しみに
打ちひしがれていた自分が嘘みたいに幸村くんとも平常心で接することが出来る
ようになった。でも、それは単純に失恋の傷が癒えたというよりは、向かう想い
の矛先がいつの間にか変わっていたからのように思う。


だからこそ、私は未だに仁王とのこの関係を断ち切れないでいる。


「名前」
「ん?」
「なんじゃ、おまえさん猫みたいじゃな」


ゆっくりと髪を梳かすように頭を撫でてくる指先が心地良くて目を瞑ると、仁王
が笑った。その笑顔を見て思わず顔が綻ぶ反面、胸がちくりと痛むようになった
のはいつの頃からだろう。


もっと別の出逢い方をしたかったと後悔しながらも、この関係を手放せないのは
どうしてだろう。


育んではいけないと知りながら、止められなかった私はなんて愚かだったんだろ
う。




利害関係からはじまった恋なんて、想いは永遠に交わらないのに。




だから、彼の質問には決して答えない。私が欲しくて欲しくて堪らなくて、散々
足掻いて手に入れられなかった答えを君だけが手に入れようだなんて、そんなの
狡いから。




きみには一生おしえてあげない
(きっと想いは交差しない)




END

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