「私たち、別れよ。」


そしたら丸井は、わかった、とだけ言った。
あまりにもあっさりしすぎているお別れ。当然と言えば当然、始まってさえいなかったのだ私たちの恋は。丸井の事は好きだ。だけど恋愛感情を抱いているのかと聞かれたら、頷けない。それは丸井も同じだと思う。もともと丸井とは友達という関係では済まない程一緒にいたから、周りからつき合っているのかどうなのかやら、詮索を入れられるのが面倒になってきて、名目だけでつき合っていたようなものだから。そこに感動も悲しみもない。


「丸井と別れたって本当なん?」
「本当だよ」
「ほー…ふった?ふられた?」
「どっちでもないかな…」
「理由が聞きたいのう」
「なんで?」
「なんとなくじゃ」
「仁王のそうゆうとこ苦手…」
「俺もお前さんのそうゆうとこが苦手じゃ」
「どこよ」
「あっさりと、何事もなかったかのように、大事なものを切り捨ててしまう所じゃ」


大事なもの。確かに丸井は大事だ。別れてしまったら、もう一度前のように一緒にいることはできなくなる。それは悲しいことだしとても寂しい。だけどそれを捨てなきゃいけなかったんだ。
泣いていた、女の子が。私と丸井がつき合っているということを知った女の子が。きっと私は丸井が別の女の子とつき合おうがキスしようがセックスしようがなんとも思わないのだ。それなのに私は丸井とつき合っていて、それを悲しいと思う女の子がいて、それはその女の子が丸井のことを好きだからだ。だからあまりにも、おかしいと思ったのだ。


「お前さんはいい子じゃの」
「ううん」
「いい子じゃよ。けど残酷じゃ」
「何に対して?」
「あそこにおる奴に聞いてみるんが1番じゃと思うのう」


丸井だった。昨日お別れした私の「友達」。仁王は気を使って席をはずす、私あんたのそうゆう所いいと思うよ。
丸井は別に変わっていない。昨日と同じ表情、相変わらず派手な髪の毛。私の知っている丸井そのまま全てだ。


「おはよう」
「はよ」
「これでよかったんだよね?」
「どうだろうな」
「…どうして?」
「それでも好きだったから」
「え、」
「俺は。それでも好きだったよ」


それでも好きだった、と彼は言う。それは私も同じで、だけど丸井のしたかった事は私とは違うのだろう。丸井だってわかっていたのだ。私たちの関係は恋でなくて、愛であって、それは男女のものではない。でもそれでも一緒にいたいのなら、ちゃんとした名前が必要だったんだ、私たちの関係に。それに名前をつけたのに。名前をつけたのは私たち二人なのに。私の罪悪感や中途半端な偽善や正義感によって、その名前は剥奪されたのだ。ああ、ごめんなさい


「私も好きだったよ」


だけどあの名前は、嫌いだった。









酸欠ボーイ&ガール

(この狭い宇宙で愛し合うには、理由が必要らしい。)

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