窓の外では、雨がまるで何かを雨叱りつけているかのように激しく降っていた。その音に導かれるように首だけ窓の方へ動かしてみても、夜の闇に吸い込まれているせいで私の目に映ることはなかった。ただ、薄いガラスを叩きつけるその音の正体が小さな雨粒だったとしても、何かに責められているような気分になるのはきっと。思考を切断して、暗がりに目を、耳を凝らす。まるでなにもいないみたいだ。そのことにひどく安心した。私のベッドに横たわっている男は、寝息も立てず寝返りも打たない。寝息は聞こえない、いや、聞こうとしていないせいだろうか。いずれにせよ不思議だった。こんなに深い闇の中では、彼の存在すら曖昧なのだ。私の心を黒く塗りつぶす、彼まで。



「みんなが貴方をいい人だと言うのに」
「みんなって、誰のことですか」
「私以外の、みんな」
「じゃあ興味は無い」



貴女が私をそう言うのなら、身をもって正解を教えてあげたのに。残念です、とその口は紡がずとも通じた。それは普段の彼からは想像ができないほど、妖艶な笑みだった。全く、どこでこんなこと覚えてきたんだろう。わざとらしくそんなことを思う。



「いい人は浮気なんかしないし、人の女を取らないと思うけど」
「貴女以外に気を浮かせては無いんですが」
「そういってくれる時だけは、貴方は私のいい人だわ」
「じゃあ、そうやって笑う貴女を自分だけのものにしたいと思う私はどうですか」



私の上に跨がった、紳士が、私の喉を優しく捕らえた。まるでこれから私を殺してしまうようだ。他人事のように思う私に気付いたのか、彼は更にその笑みを深くした。私はその笑顔を知っていた。だから彼がするんだと思うと、何故だかとても怖くて、嬉しかった。



「…わるい人」
「貴女をこのまま殺してしまったら、私は貴女の言う"みんな"にもそう言われるのでしょうね」



彼との甘い戯れは欠片もこの部屋に残らない。自分の喉をそっと撫でてみても、彼の指の熱はもう残っていない。ただ、あの笑顔だけは。私に罪の意識を負わせるには、充分だった。それが私にとっていいかわるいかなんてわからないけれど。あれは私が愛した彼の笑顔と同じだった。いつから彼のものじゃなくなったのだろう。いつ、奪われたんだろう。雨音は尚も私を責める。私にとってはその罪の意識すら、いとおしいというのに。




あなたと落ちる地獄なら


喜んで全てを捧げましょう





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