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近寄りがたい、と感じてしまう時がある。
指摘すると犬並みの嗅覚だと茶化されそうなので言わない。アイツはたまにどうしようもなく臭う。
何のって、生臭いぷんぷんとした臭いだ。
「お前、臭いアル」
「繊細な十代になんてこと言うんでィ」
チューペットを咥えてぐむぐむと上下に動かすサド野郎は真っ赤な目を細めた。頭の上には真っ赤なアイマスクが置かれたままになっている。昼寝を終えたところなのか、これからするのか。
そのチューペットの半分でも分け与えてやろうという優しさはないのか。鬼か。
「加齢臭じゃないネ」
「当たり前だろ。そういうのは暫く近藤さんの担当でィ」
そのうち土方さんの担当にもなるがな、と。そのうちお前の担当にもなるネ。
臭いの正体はすぐにわかったし、コイツも自覚はしているはずだ。わからないなんて、そんなことあるわけない。
「血の臭い。ぷんぷんするネ」
鼻を袖で隠してわかりやすく眉間に皺を寄せて不快感をアピールしてやれば、すん、と鼻を動かした。
「……よくわかんなァ。全然自分じゃ気づかねェ」
すんすんと服を嗅いでから首を傾げる。本気でわからないんだろう。もう身体に染み付いてしまっているんだと思う。私も以前はそうだった。
血自体は落とす努力をしたみたいで、いつもより強く石鹸の香りも混ざる。まあ、結果血の臭いと混ざって更に最悪になってるけど。これにも気付かないんだろう。
「他の奴も多分わからないヨ」
銀ちゃんならわかるのかもしれない。多分、銀ちゃんはくぐり抜けてるものの数が違う。多分きっと気付く。
「さっさとマヨラーのヤニ臭さかゴリラの加齢臭で消してもらうネ」
「それ余計に悪臭放ってんじゃねェか」
チューペットを咥えたままよくそんなに器用に喋れる。何か言う度にぴこぴこ揺れるチューペットは結露して水滴を纏わらつかせる。そうして、上下する衝撃に負けてぱたぱたと地面に落ちた。
それを一瞬涙と錯覚してしまって、ぎくりと固まる。そんなわけがないのに。コイツがこんなことで泣くわけがないのに。
「……そういえばマヨラーがこの近くでお前探してたネ」
「げ。なんでそれを早く言わねェ」
動揺を悟られたくなくて話題を露骨に反らせば、何の疑問も抱かずにそれに乗ってくれた。その簡単さに安心しながら、ばくばくと煩い心臓に必死に無視を決め込んだ。
真選組は血の臭い鈍感だといいねっていう