曖昧ミーマイン

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最近わかったのだが、緑間にも人並みに性欲は存在するらしい。
俺と緑間は紆余曲折あってそういう関係になったわけだが。いや、まあ、一時の気の迷いになるかは正直俺もわかんねえけど、とにかく今はそういう関係で。でもせいぜいキスするくらいのもんで。てっきりそういうことに興味が無いのかと思ってたんだよ。なんかこう、アイツはそういう感情とは無縁な気も勝手にしてたし。
でもアイツは人並みにあると言ったし、それを俺に向けてるとも言った。恥ずかしげもなく。真顔で。真顔で!

「じゃあ俺を抱きたいとか思ってるってことか?」
「俺も男だからな」

こういう方向に対して羞恥心がないのか緑間は表情ひとつ変えない。少しは恥じらえよ。恥ずかしくなってる俺が馬鹿みたいだろ。

「じゃあ、するか?」

むずむずと落ち着かない気持ちのまま問えば、緑の瞳が大きくなった。何でそんなに驚いてんだよ。

「……お前、俺に欲情するのか」
「そりゃ好きなんだからするだろ」

世の中にはプラトニックなんてものも確かに存在はするけど、俺は至って普通なお盛んな十代だ。好きな相手を前にしてそんな気持ちになるなという方が無理だ。まあ、確かに相手は一般的な欲情対象とは外れてるかもしれないが。
ひとしきり驚きを表現した緑間は今の今まで視線を落としていた本を閉じた。俺と真剣に会話する気になったか、乗り気になったか。どっちでも嬉しいから別にどっちだっていい。

「俺の家に誰もいない今日がチャンスだぜ」

妹ちゃんは友達の家にお泊りだ。両親はそれに合わせて旅行の計画を立てていたので今頃は京都でのんびりしているはずだ。
俺達は俺の保護の元に生きている子供で。こうして二人きりになれる機会なんてそうそうない。チャンスだ。これを逃がすと次のチャンスがいつになるかわからない。そう説明してやれば「言われなくてもそれくらいわかっているのだよ」と不機嫌そうに返された。

「……高尾」

不安げに俺の名前を呼ぶ。普段不遜なくせにこういう時は弱いのは卑怯だろ。なんて、思っても言わないけど。

「何」

怖いと言うなら無理強いするつもりはない。コイツは童貞だろうし、初めてのことはなんだって少なからずは怖いもんだ。こういうことは合意の上でないと意味が無い。緑間の覚悟が決まるまで待つくらいは全然苦じゃない。
そう言えば緑間は「違う」と何故か苛立って。違う?

「……その、だな。どっちがするんだ」
「どっち?」
「どちらも男なのだからどちらかが譲らなければいけないだろう。それくらい知っているのだよ」

緑間の言葉の意味が一瞬理解出来なくて、ぽかんと口だけ開く。いや、なんつーか、緑間がそういうところまで考えてたのが意外というか。

「高尾?」

あまりに思考停止していると、緑間が不機嫌そうに俺を見る。そこで不安げな表情でないのが緑間の緑間たる所以だろう。聞いているのか貴様、とでも言ったところか。素直な感想を口にすると十中八九機嫌を損ねるので名言は避けておこう。

「ちなみに真ちゃんはどっちのつもりでいるわけ?」

俺としては抱けるもんなら抱きたいが、緑間が抱く側がいいと強く主張するなら譲るのも吝かじゃない。だからどうなるかは緑間次第だ。

「重要視しなければいけないのは二つだ」
「……ん?」

緑間の意思を聞いてたはずなのに、微妙におかしな返事が来た。まあ、たまにあることなので俺自身が理解出来るまで根気強く聞き続ける。緑間は賢い方に分類されるので、文脈を理解していないわけじゃない。単に思考回路が若干ぶっ飛んでるところがあるだけで。それを俺は理解しないといけないわけで。

「最も重要なのはバスケに影響が出ないことだ。一部の器官を本来の用途とは異なる使い方をするわけだからな。少なからず身体に負担はかかるだろう。だがバスケに影響が出るのは論外だ」
「……おう。そうだな」

俺達は強豪校のスタメンで、俺達の今はバスケありきだ。将来はともかくとして今はバスケのない生活なんて考えられない。とにかく使える時間をバスケに費やしたい。
バスケを大切に思う気持ちはわかるし、俺だって気持ちは同じだ。更々バスケに影響を与える気はない。

「そしてこれはバスケにも繋がるが、リスクを最小限抑えることが重要だろうな。元々リスクが男女の場合よりも高い分、慎重にしなければいけないのだよ。ここまではわかるな?」
「……ああ、うん」

思ったよりも真剣に検討してくれてたらしい。とは言えいつ突飛な持論が飛んで来るかわからないので気は抜けない。コイツはいつだって俺の意表を突いてくる。

「そこで、だ。役割を決める上で注目すべきは二点だ。まずは、性器の大きさ」

あ、やばい。無理無理。
緑間はごくごく真剣に発言しているのはわかるんだが、わかるんだけども!堪えきれずについつい噴き出してしまう。性器て!

「ぶほっ……性器ってお前……ふはっ!」
「……笑い過ぎなのだよ、馬鹿め」

怒られるかと思ったが、緑間は呆れ返るばかりで怒る様子はない。
それでも笑いを止めきれないでいると、緑間は呆れたままで話を再開した。俺が落ち着くのを諦めたらしい。

「……続けるぞ。安全性を考慮するなら性器が小さい方が挿入側に回った方が危険性は低い」

情緒の欠片もない言い回しにまた笑いそうになる。これ以上笑うと流石に怒るかもしれないので必死に堪えはするがやばい。

「その理屈でいくとお前が女側になるけどそれでいいわけ?」

お互いのそれの大きさは合宿の時に見たので知っている。ってか、この体格差があって緑間の方がでかいのは当然というか。まあ、必ずしも体格に比例するわけでもないんだろうが。

「話は最後まで聞け」

まだ緑間の話には続きがあったらしい。そういえばさっき注目すべきは二点とか言ってたし、そのもう一点のことかもしれない。

「役割を決める上で重要になってくるのは性器の大きさだけではない。その、だな……」

これまで情緒のない赤裸々な発言を恥ずかしげもなくしていた緑間が、急に言い淀んだ。そんなに言いにくいことか。
ここで茶化すと話ごと流れてしまうので、じっと緑間が決心するまで待つ。じっとその様子を眺めていると、不意に視線が俺から外れた。

「俺はそういった経験がない、からだな……挿入する側になると上手く出来ない恐れがあるのだよ」

もごもごと聞き取りにくい声で。

「……あー」

なるほど。コイツが童貞なのは言われなくてもわかってたけど、コイツはそれが心配だったらしい。リード出来ないかもしれないからリードさせてしまおうって思考になるのもそれはそれでどうかとも思うんだが。

「ってかさ、もしかしたら俺も童貞かもしれねえじゃん。そんな俺に任せてもいいわけ?」

緑間とはそういう話をほとんどしたことがなかったから、俺が童貞かどうかを緑間は知らない。だって、そういう話を振ってもコイツは露骨に興味が無いって顔をするから。
少しでも動揺するのかと思えば、緑間は疑問符を浮かべて首を傾げた。言っている意味がわからない、か?

「仮にお前に経験がないとしても俺よりは遥かに上手くやるだろう?問題はない」

平然とそう言ってのけた。全幅の信頼を寄せてくれているらしい。
好きな相手にこれだけの信頼をされて揺らぐなって言う方が無理だ。

「………………ああ、うん。わかった。じゃあそれで行こうぜ。要る物買いに行こうぜ」

ちょっと外に出て落ち着こう。ぐらぐら頭の中が煮えてる錯覚がする。それを何とかしたくてとりあえず時間を置きたかったのに、緑間は短く鼻を鳴らした。

「それなら抜かりないのだよ」
「ん?」
「準備物は抜かりない。俺を誰だと思っている」

得意気に眼鏡を押し上げる緑間を見て、再認識する。そういえばコイツは完璧主義者だった。

「そんなに俺とするのが待ち遠しかったのかよ」

動揺を悟られたくなくて茶化したのだが、不発だった。緑間は怒るでも飽きれるでも照れるでもなく。

「わざわざ言わせるとはお前はなかなか悪趣味だな」

当然だろう。
きっぱりと言い切った緑間はどうしようもなく男らしくて。
やっぱり役割逆の方がいいんじゃねえの?と思ったり。いや、譲る気はねえんだけど。


答え合わせは夜


効率とか合理性とかで役割決める緑間氏

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