曖昧ミーマイン

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友人とキスをすることになりました。
理由?そんなもん俺が聞きたい。

「……なあ、本気か?」
「冗談で言わねーだろ。今ならベル坊寝てるし、ヒルダも買い物に一緒に言ってる。今しかねえ」
「ああ、そう……」

俺と男鹿はなんやかんやで付き合っていたりする。ベル坊やヒルダさんがやって来てから二人きりになれる機会が減ったが、付き合ってるのは付き合ってるのははずだ。手を握るのがせいぜいだが。

「キスするのはいいけどよ、お前したことあるのかよ」

俺の知る限り、男鹿はそういった経験がない。暇さえあれば誰かに絡まれて喧嘩をしていたり、俺を引き連れてゲーセンに行ったりコロッケを食ったりしているような奴だ。彼女がいたなんて話は全くもって聞かなかった。ヒルダさんが来てからは夫婦という認識をされるようになったから余計にだろう。

「あ?ねーよ」
「だろうな」

予想はしていたが、男鹿の答えはNOだった。まあ、それもそうか。
ファーストキスが男って、お前はそれでいいのか男鹿。最初のキスが基準になるだろうし、そうなると俺にかかってくる責任が尋常じゃない気が……。
なんて考えてたら、三白眼がじとりと俺を見た。感情の篭ってない目で凝視されると、ちょっとびびる。

「な、なんだよ……」
「お前はキスしたことあんのかよ」

彼女いたことあっただろ、と感情の篭ってない声で言う。
……うーん、これは素直に言うべきか。下手に嘘ついても機嫌を損ねそうだしな。気恥ずかしい気もするが仕方ない。

「ねーよ」
「はあ?彼女いたろ」
「彼女とそういうことする前に悉くお前が邪魔したんだろうが」

ベル坊の時がいい例だ。
彼女といい感じになろうとしてる時に限って問題を持ち込んで来る。そのせいで何度か出来た彼女とは何も出来ず終いだった。
ああも毎回のことだと怒りも湧いてこない不思議。

「じゃあお前も初めてか」
「残念なことにな」

せめてファーストキスはグラマラスで包容力のある美人なお姉さんが良かったなあ、なんて考えてもどうしようもない。
目の前には目付きが悪く色気のいの字もない同級生。これが現実だ。

「いくぞ古市。おい、溜息ついてんじゃねえ」
「はいはい」

溜息くらい許せよ、と続けようとしたところで思い切り胸倉を掴んで引き寄せられる。
何すんだ、と抗議の声を上げようとしたところで、がつんと男鹿の頭が俺の頭に。頭突き、じゃないな。キスか。マジか。

「いっ!?この、石頭……」

額が勢い良くぶつかったせいで、頭が割れそうに痛い。それでも男鹿は構わずに、ぴたりと唇を押し当てた。

「……」
「……」

野郎の唇でも柔らかいもんなんだな、とか。っていうかこれってどうやって息すんの。鼻から?でもこの距離だと相手にかかるだろ。え、もしかして俺が知らないだけで独自の呼吸法とかあるのか?
ぐるぐる考えてる間にも息が続かなくて頭がくらくらしてくる。これ男鹿もやばいんじゃねえか?とか考えてたら、思い切り肩を掴まれた。
痛い痛い痛い!もげる!

「っっっぶはっ!」
「うおっ!?」

ぐんっと肩を押されて引き剥がされた瞬間、新鮮な空気が口から入ってくる。生き返る。
呼吸が出来ることを改めて感謝していると、目の前の男鹿も大概荒い息をしていた。ああ、やっぱりコイツも息してなかったか。

「……古市」
「何だよ」
「息、ってどうすんだコレ」
「知らん」

寧ろ俺が聞きたいわ。
初心者同士でやるからこういうことになるんだろうなあ、とか思いつつそんなに嫌でもないんだからどうしようもない。

「そろそろヒルダが帰って来るな」
「そうだな」

ヒルダさんに目撃される、なんてことは絶対に避けたいので今日のところはこれまでだろう。

「とりあえず次回は勢い抑えてくれ。でこが痛い」

俺の額はじんじん痛むのに、当の男鹿はけろっとしていた。
これだから石頭は。


迷い子


初々しい二人が書きたかった

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