曖昧ミーマイン

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「今現在の僕はクラサメ君と言う存在がなければ成り立たないものなんだ」

唐突におかしなことを言うので猜疑の目を向ければ、カヅサは至って常と変わらない様子で「事実だよ」と返した。ふざけている様子は無い。
つまり本気だと言うことだ。

「人は記憶によって成り立っているんだ。例えば僕の記憶の中で一番多いのは実験に関することだろうけど、三分の一位はきっとクラサメ君に関する記憶だろうね」

出されたコーヒーに手をつけないでいると「今回は何も入れてないよ」と苦笑しながらそのコーヒーを一口口に含んで、自ら毒見をしてみせた。そこまでされるのなら飲まないわけにもいかないだろうと、コーヒーに口をつける。そこまでしないと出されたものに口をつけられないこの関係も妙だとは思うが、こればかりは仕方ない。こいつには何度食べ物に薬を盛られたことか。警戒するなと言う方が無茶だ。

「だからね、君は僕より先に死なない方がいい」

コーヒーはこちらの好みを熟知しているらしく、苦すぎず甘すぎずの程良い味になっている。これで時折妙な薬が入っていなければ言うことがないのだが。

「記憶の喪失は人格の喪失でもある。記憶の三分の一も失えば人格は多少なりとも変わるだろうし、僕だってそれに気づくだろう。それなら僕はきっとその記憶を取り戻そうとするよ。その記憶が君に関することだと言うことも僕ならきっとすぐに気付くだろうしね」

そんなわけないだろう。人が死ねばクリスタルが忘れさせてくれるのだから。
そう思いはするが、カヅサがあまりに真剣に言うので、それを否定するのは憚られた。

「君を取り戻すためにきっと僕は君を冒涜するよ。ありとあらゆる君に関するものを利用して、どんなに他人に何を言われようとも、どう思われようとも。きっと僕は君を探すんだ」

狂気すら感じる発言だが、きっとカヅサは本当にやってのけるのだろう。目的の為なら手段は選ばないのは今に始まったことでもない。本人曰く多少は選んでいるつもりらしいが。
まあ、そんなことよりも。

「……無事に帰って来いと言えば済む話だろう」

要は、作戦参加が決定している俺を心配しているのだ。それなら素直にそう言えばいいだろうに、どうしてわざわざ重たい方向へと話を進めるのか。
心底疑問だったのでそう素直に口にすると、カヅサは唇を尖らせた。何故拗ねる。

「だって素直に言っても聞き流すじゃないか」
「…………ああ」

言われてみて、確かにそうかもしれないと思う。カヅサのテンションに始終付き合っていては、こちらがもたない。だから確かに流すかもしれないとは思う。

「まあ、それに今言ったことは本当だしね。気を付けてね。君は早死にしそうだから」
「お前は図太く生きそうだな」
「それ、エミナ君にも言われたよ」

そんなに図太く見えるかなあ、とカヅサは苦笑する。

「……お前がこれ以上怪しげな実験をしなくてもいいよう、努力はしよう」

言葉だけでは説得力に欠けるのだろうが、言葉以外に尽くしようがない。
それはカヅサもわかっているようで、眉をハの字にしながら肩を竦めた。

「今はその言葉を信じるよ」
「……心配をかけるな」
「全くだね」

こうして心配してくれる人間がいることが幸せであることはわかっているので、耳にタコが出来そうなくらい聞いた小言は甘んじて受けることにした。


構築する蒼の全て


クラサメのプライベートの一人称は「俺」だと信じてる

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