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俺様が死んでも旦那は泣かないだろうって確信がある。悲しくはない。寧ろ誇らしいとすら思う。
「花でも添えてやるべきか」
「どうせすぐ枯れるんだ。摘んでやっても可哀想でしょ」
死んだ者のために今生きているものを殺してやることはない。そう思うのは白状なんだろうか。
旦那はぐっと眉間に皺を寄せる。とは言っても、不機嫌になったわけではなくて。
「む。それならやめておく」
あっさり納得して引き下がってしまった。
こういう聞き分けのいい素直なところが、少し心配。杞憂に終わらせるつもりだけど。
「いつになったら世は良くなるのだろう」
簡易的に作られた墓達の前で。ぽつりと零したのは純粋な疑問で、憔悴などはないようだった。これくらいで憔悴されても困る。
「大将と旦那が良くするんだろう?」
「勿論だ」
即答するその表情は凛としている。その頬が涙で濡れることはないんだろう。
まあ、でも泣きそうな顔くらいはしてくれるんじゃないかと。願望も込めて思う。
「ん?佐助、何か言ったか」
何も口にしていないはずなのに見透かしたかのようにそんなことを言うから、気取られてしまった気がして。思わず降参の格好を軽くとる。
「いいや、何も」
そう言えば素直な旦那は少し首を傾げながらも頷いた。
「そうか」
アンタの悲しむ顔を想像してたんですよ、なんて言えるわけないので多分これはどうでもいいながらに一生の秘密になるんだろうと、漠然と思った。
佐助が討ち取られても幸村は泣かなかったので