曖昧ミーマイン

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※ゲームクリア後設定















事件を解決して一年が経過して、鳴上は親元に帰ってしまった。元々一年だけ叔父の堂島さんのところで世話になることになっていたのは知っていたけどいざいなくなると寂しい。

「友達出来たか?」
『まあまあ』

今となっては携帯ごしに鳴上の声を聞くのが日常で、毎日手が届く距離にいた一年が懐かしい。もう晩方だからあまり長電話をしてしまわないように気を付けようと思う。

「まあまあって何だよ」

まあ、鳴上のことだから馴染めたんだろうとは思う。これだとあんまり話が続かないことに気付いて俺は話題を変更する。

「そういえば今日って七夕だな。そっちって天の川見えるのか?」

都会は星が見えにくい。確か街そのものが明るすぎるせいで星の小さな光が掻き消されてしまうという理屈だったような気がする。純粋に空気が悪いというのもあったような気がする。あてにならない知識ばかりだ。
何気なく振った話題だったが鳴上は「どうだろう」なんて呟く。足音も混じって聞こえてくるので移動しているのだろう。まさか、確認しているのか。アイツはそういう手間惜しまないだろうしなあ、なんて考えていると電話の向こうから僅かに落胆した声が届いた。

『見えなかった。そっちは?』
「こんな田舎で見えないわけないだろ」
『それもそうだな』

そんなに天の川が見たかったのか。予想以上に鳴上が食いついてからなんとなくおかしくなる。おかしくなると口が滑るようになるのはきっと俺だけじゃないはずだ。

「そんなに見たかったのか?別に天の川見えなくてもあるだろ、天の川」
『天の川がある?』

鳴上が怪訝な声を上げたから仕方なく説明をする。一発で理解されたらそれはそれで俺と波長が合い過ぎていて怖い気もするからわからなくて当然だ。

「そ、俺達にとっての天の川は距離。しかもコイツは年に一度消えてくれるなんてことはないわけだ」

俺達は学生だから時間はある。でも俺達は学生だからお金がない。だから滅多に会えない。毎日会えていた去年が懐かしい。本日二度目の追憶。
面倒臭いことを言った。角度を変えれば鳴上が越して行ったことを責めているようにもとれる。流石に鳴上はそこまで歪曲した解釈はしないだろうけど。
言い切ってから思うのもどうかと思うがすごく前言撤回したい。というか穴があったら入りたい。あああ、何であんなこと言ったんだ俺。しかも鳴上がそれから喋らないから怖い。失言か、失言だったのか。

「あの、鳴上……さん……?」
『陽介』
「はいっ!」

恐る恐る声を掛けてみたら間髪入れずに名前を呼ばれたからつい返事をする声が上擦る。ついでに相手には見えるはずもないけど反射的にびしいっと姿勢も正した。

『俺達はその気になればいつでも会えるだろ』
「……へ?」

どんなお怒りの言葉が飛んで来るのかと身構えていたところに思わぬことを言われて素っ頓狂な声が出る。しかも鳴上は至って真面目で冗談半分に返すのは躊躇う。

「……お前って本当に男前だよな」
『そう?』

しかも無自覚ときた。かなり面倒臭い部類に入る俺の愚痴ともつかないぼやきを対してもあの言葉ときた。俺だったら一緒になって落ち込みそうだ。

「じゃあ今度そっち行っていいか?」
『駄目なはずがない』
「そり良かった」

往復で結構かかるだろうけどジュネスでバイトしてるからそれなりに貯金はある。原付きを購入する道のりは遠退きそうだが仕方ない。具体的にどうやって行こうか考え始めただけでさっきまでの憂鬱なんてあっという間にどこかに行ってしまう。計画を練るために今日の通話はこれくらいにしておこうか、と思ったところで鳴上が「あ」と声を上げる。それから俺が不思議に思う暇もなく続けた。

『来年の七夕は俺がそっちに行くから』

来年のことまで予定に入ってるのか、とか来年の七夕って言ったらもう高校生じゃないぞとか色々なコメントは浮かんだけど鳴上はきっと天の川を見ようと意地になっているだけだ。そんな子供っぽさが面白い。

「じゃあ来年はみんな集まって旅館でも泊まるか」
『賛成』

他の奴らも会いたがってることだし。
そう考えると来年が楽しみになってきた。


現実的な夢物語


2012年の話。そして七夕ネタ


2011.06.30

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