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冬休みというのは授業という退屈極まりないものがないという代償に友達にも気軽に会うことは出来ない。いや、会えるのは会えるが流石に正月に連絡をとるのは気が引ける。
「……でも暇なんだよなあ」
親はジュネスが忙しいようで家には誰もいない。テレビは毎年恒例の新鮮味のないものばかりで見る気はしなかった。
「……」
携帯をいじくりまわして鳴上の電話番号を呼び出す。特に意味もなく語呂合わせでも出来るんじゃないかと数字の羅列を睨んでみた。迷惑だろうか。少しでも迷惑そうだったらさっさと切り上げよう。で、一人寂しくふて寝でもして新年過ごしてやる。半ば自棄でそんな決意をしながら通話ボタンを押した。呼び出し音が何度も繰り返される。やっぱり家族サービスで忙しいんだろうか。留守番電話に繋がりそうになったら切ってやろうと考えたところでようやく電話が繋がった。
『もしもし』
いつもと同じような声が聞こえてきた。とりあえず露骨に欝陶しがられなかったことに安心した。内心欝陶しいと思われてるかもしれないがその可能性は排除の方向で行く。
「よう、相棒。元気してたか」
『まあ』
「まあってなんだよ。おまえ今何してんの?」
質問してからなんだか彼女みたいな質問だと思った。あながち間違ってないけど。
『これから初詣に行くところ』
「あー、菜々子ちゃんとか。堂島さんは?」
『珍しく休みで一緒。陽介は何してるんだ?』
その質問がくるのは予想していた。けど予想出来てたからって答えが用意出来てるわけじゃない。出来れば質問してくれなければいいなーなんて淡い期待を抱いてたわけなんだけどやっぱり聞くか。
「俺はこれから初詣に行こうかってところ。一人で寂しくおまえとの愛が永遠に続くようにお願いしてくるわ」
笑えないけど無理矢理茶化してみる。苦笑いでもしてくれれば上々だと思ってたけどしばらく経っても反応がない。……まずい。まさか怒らせたか。
「あの、鳴上?」
『……』
まずい。これは怒らせた。
普段あまり怒らない奴だけに怒らせると怖い。
「いや、なんていうかアレだ!願うまでもなく俺とおまえの愛は永遠っつーか、あああ、でもこの考えが重いのか。茶化しすぎました、マジで悪かっ」
『陽介』
「はい!」
名前を呼ばれてもやっぱり怒ってるのか何を考えてるのかわからない。思わず緊張して声が少し裏返った。鳴上に怒られる覚悟を決める。
あー、もうなんであんなこと口走ったかな、俺の馬鹿。
『一緒に初詣行くぞ。十分だけ待ってやる』
「へ?堂島さんと菜々子ちゃんと行くんじゃないのかよ」
『だから陽介も一緒に』
人がせっかく遠慮してやってんのにこいつはそうやってさらっと踏み込むのを許す。だから俺が日に日に調子に乗るんだ。こいつはわかってないに違いないけど。
嬉しいけどそれを口にするのにはタイムラグがある。だからそれよりも先に月森が続けた。
『嫌なら無理せず一人で行ってこい』
「い、いやいや!すぐ行く!すぐ家出る!」
マフラーを巻き付けたり手袋を嵌めたり、慌ただしく準備を始めた音が向こうにも聞こえたのか鳴上は「じゃあ待ってる」とだけ言って電話を切った。
この時点で二分経過してる。俺はコートを羽織ると財布をポケットに突っ込んで玄関まで走る。両親が今の俺の顔を見れば何をにやけてるんだと言われそうだけど家には誰もいないので関係ない。
俺はにやけた顔を隠すことなく靴を履きながら家を出た。
正月ネタ。
他のメンバーも出したかったけど長くなりそうだったので割愛。
2010.12.23